【論説】坂井市内で誕生した国の特別天然記念物コウノトリのひな4羽が、すくすくと成長している。順調なら、7月下旬から8月上旬に巣立つ見込みという。野外での巣立ちとなれば、県内では1961年に小浜市で確認されて以来58年ぶりの出来事となるが、当の坂井市の盛り上がりは、いまひとつのように感じる。

 坂井市のペアは今年3月以降、同市と福井市鶉、本郷地区を転々とした。各地で営巣の兆しを見せ、最終的に4月下旬に坂井市に落ち着いた。

 コウノトリの突然の到来には住民だけでなく、市も戸惑った。市会6月定例会の一般質問で、議員から巣塔の設置を提案された坂本憲男市長は「現状では難しい」との見解を示した。巣塔を設置するとなれば、設置場所の選定や周辺環境の整備などの課題が出てくる。市ぐるみで「コウノトリが舞う里づくり」を進めている越前市などとは異なり、専門的な知識を持った職員もいない。二の足を踏むのは理解できる。

 一度は日本の空から姿を消したコウノトリ。貴重な鳥を復活させる物語は、半世紀前に始まった。野生復帰の可能性が高まると、生息環境の再生へと関心が広がった。食物連鎖の頂点にあるコウノトリがすめる環境とは、多様な生き物がすめる環境。つまり人にとっても素晴らしい環境に違いない。地球温暖化など深刻な環境問題と相まって、コウノトリは、そうしたまちづくりのシンボル的存在となっていった。

 生物多様性の取り組みは持続性と広がりを持たなければ、十分な成果を上げることは難しい。法令の規制だけで足る問題ではなく、経済活動や農業など、地域の一人一人が自分たちの暮らしをどうするのかという「生」の本質に深く関わってくる。だから簡単ではない。

 自治体の役割とはなんだろうか。自然は地域ごとに個性がある。それぞれの地域の特性に応じた生物多様性の保全活動と、持続可能な利用を推進する役割が地方公共団体には期待されるはずだ。坂井市でも総合計画に位置づけられている。

 野外で生息するコウノトリが年々増えている中、これからも坂井市に飛来する可能性がある。坂井市は九頭竜川や竹田川、市東部の森林地帯、福井一の米どころを支える広大な田園など、豊かで美しい自然に恵まれている。巣塔の設置はひとまずおくとして、住民と対話し、教育と結びつけながら、生態系の保全の意識を高めていく絶好の機会ではないか。

関連記事