【越山若水】1964年の東京五輪で水泳会場となった国立代々木競技場第一体育館。建築家丹下健三氏の代表作として知られる。「つり屋根構造」の優美な曲線が特徴で、世界的に評価されている。その構造設計を担ったのが、福井市出身で5月に86歳で亡くなった川口衞(まもる)さんだった▼屋根に曲面を出すには構造上の難問があった。悩みぬいた末、川口さんは、つり材として鉄骨を用いる世界初の工法を生み出した。実現すると「コロンブスの卵のような出来事」と、後年回想している▼その後も、70年大阪万博の「お祭り広場大屋根」、富士通グループパビリオンなど斬新な構造設計を手がけた。本県のサンドーム福井では、屋根に雪をためる“ポケット”をたくさん配し、落雪による被害が出ないよう工夫した▼銭湯を営む家に生まれ、福井大建築学科を卒業。20代で代々木競技場に取り組んだ。構造デザインとは「五体、五官を総動員して行う、全人格的な作業」と著書に記した川口さん。親交のあった福井市の建築士櫻川幸夫さん(69)は「民謡を歌うのが好きな、気さくな方でした。自然の美に合理性をみいだし、発想に生かされていた」と語る▼代々木競技場は耐震改修を経て、来年の東京五輪でもハンドボール会場に使われる。若き日の川口さんが自ら考えぬいて、「新しい価値」の創造をめざした名建築に再び光が当たる。

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