【論説】いまだ休戦状態にある国に敵国トップが足を踏み入れたのは「歴史的瞬間」には違いない。ただ「瞬間」に終わらせては何の意味もない。2、3週間後とされる実務者協議を実のある場にしなければならない。

 トランプ米大統領が現職大統領として初めて北朝鮮に入り、板門店(パンムンジョム)で金正恩朝鮮労働党委員長と行った3度目の米韓首脳会談は、米主要メディアがこぞって「歴史的」と報じた。北朝鮮でも党機関紙などが複数面を割き大々的に報じた。

 両首脳ともご満悦だろう。トランプ氏は20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)の最中も、米国で行われた民主党大統領選候補者によるテレビ討論会が気になっていたという。米中貿易交渉の再開だけではアピールが足りないから、板門店に彼を誘ってみようと思いついたのだろうか。

 金氏にとっても渡りに船だったようだ。2月にハノイであった2度目の首脳会談では大々的に前触れ報道をしながら物別れに終わりメンツ丸つぶれとなった。今回の対面は威信回復にはうってつけだった。

 「パフォーマンス」であることは明らかだが、肝心なのは実務者協議でどう折り合うかだ。ハノイ会談では協議が煮詰まらないまま、トップ同士の話し合いに委ねられ、米国側がいすを蹴った格好だ。一括非核化を求める米国と、段階的な非核化でその都度見返りを狙う北朝鮮のスタンスの違いは大きい。

 具体的な非核化措置が打ち出されなければ、「政治ショー」と揶揄(やゆ)された過去2回の首脳会談と同様になりかねない。もっとも、「交渉を急がない」というトランプ氏にとっては安易な妥協を責められるより、交渉中の方が大統領選には有利とみている節がある。

 安倍晋三首相は、思いつきのツイッター発信でいとも簡単に実現した首脳会談に歯ぎしりしていないか。「条件を付けず」に金氏との会談を求め続けているのに、北朝鮮側は「ずうずうしい」「過去の植民地支配の清算が必要」などとけんもほろろ。一向に局面展開が図れない状況だ。

 G20で韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領と会談しなかったことに後悔はないか。文氏は板門店で両首脳と談笑するなど「仲介役」として息を吹き返した感がある。日朝会談に必要なチャンネルの一つを手放したように映る。

 それどころか、元徴用工問題絡みで、韓国向け輸出の規制に踏み切るという。明確な解決策を示さない韓国の姿勢も問題だが、だからといって強硬措置はいかがなものか。北朝鮮の非核化には日韓の結束も欠かせない。G20で自由貿易の重要性を説き「意見対立でなく共通点に光を当てた」と胸を張ったのは誰か。

関連記事