【越山若水】解剖学者の養老孟司さんは、政治のことが好きではない―と自身の本で公言している。その理由は小学生のときに暗記させられた中国の「十八史略」に登場する逸話のせいだと言う▼それは伝説の賢帝・堯(ぎょう)にまつわる言い伝えである。堯は治世の善しあしを確かめたくて、側近や識者に尋ねたが全く判然としない。そこで貧相な格好で町に出かけた。すると一人の老人が食べ物をほおばり、腹鼓を打って足踏みをしながら、こんな歌を歌っていた▼日が昇れば仕事を始め、日が沈めば休息する。井戸を掘って水を飲み、田畑を耕して食事を取る。「帝力何ぞ我にあらん」。皇帝の力なんて関係ない…。そう聞いて堯は安心して帰った。これが故事「鼓腹撃壌(こふくげきじょう)」の由来で、人々が天下太平に暮らすことを意味する▼要するに、庶民が政治を意識せずに生きるのが理想的。だから養老さんは「鼓腹撃壌」、天下国家に関係ない方が無難だと思うようになったと述懐する。とはいえ「半分生きて、半分死んでいる」(PHP新書)では、日本が抱える課題にいろいろ見解を述べている▼さて、参院選があさって公示される。安定した「自民1強」を背景に、安倍晋三首相は憲法改正を争点化。一方で野党は共闘態勢を強化、「老後年金2千万円不足」など生活優先を訴える。令和初の国政選挙である。さすがに無関心ではいられない。

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