【論説】「仲の悪い家族や親戚同士がクリスマスに集まることを想像してほしい。とんでもないことを誰も言い出さないことをただただ願おうと」。米国の国際政治学者は20カ国・地域首脳会議(G20大阪サミット)を前に、全国紙で会議の雰囲気をこう例えていた。

 「誰も」の部分はトランプ米大統領であることは誰もが認めるところだろう。議長役である安倍晋三首相との蜜月関係が功を奏したのか、「とんでもないことを言い出さない」どころか、世界が危惧していた米中貿易摩擦では「交渉の再開」という無難な落としどころで合意をみた。

 ただ、状況は何ら変わっていない。参院選後には米中に続き、日米通商交渉が加速してくる。G20でまとまった案件も緒に就いたばかりのものが多く、予断は許されないとみておく必要がある。

 ■貿易交渉に固唾■

 G20の参加国にとって、最大の関心事は米中貿易摩擦の行方だったことは、会議初日に懸念が噴出したことでも明らかだった。G20創設のきっかけにもなった2008年の米リーマンショック以降、世界経済は成長を拡大させてきた。それが米中の関税合戦で急速に縮んできている。29日の米中首脳会談の行方に各国首脳が固唾をのんでいた。

 両首脳にとっても何らかの打開策が必要だった。米国では民主党大統領候補による舌戦が新聞のトップニュースを飾る中、トランプ氏に交渉決裂の選択肢はなかったようだ。G20閉幕後の記者会見では農産品の輸出に触れ、農業関係者の期待に応えたと満足感を示していた。さらに、懸案の中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)排除に関して米国からの部品輸出に限り認めるとも述べた。

 ■日米安保に言及■

 トランプ氏は交渉が決裂した場合、中国からのほぼ全ての輸入品を制裁関税の対象にするとしていた。発動すれば米企業への悪影響も避けられず、公聴会では多くの企業から「反対」の声が上がっていた。中国の習近平(しゅうきんぺい)国家主席にしても、国内企業の国外移転による失業問題が浮上するなど、折り合いを付ける必要があったはずだ。

 ただ、交渉継続も収束の見通しは立たないままだ。中国にとって国有企業などへの産業補助金廃止は国家体制の根幹に関わるものであり、簡単には譲れない。米国内では中国の覇権を危険視する声が党派を超え強まっている。

 日本にとって気がかりなのは、米中交渉が長引いた場合、トランプ氏が対日交渉に成果を求めようと強硬な姿勢に打って出ることだ。現にトランプ氏は日米安保条約への不満について首脳会談では封印したものの、閉幕会見で問われ、まくし立てた。

 ■WTOに名を借り■

 G20大阪首脳宣言には「自由で公正、無差別な貿易・投資環境の実現に努力する」との文言を盛り込んだ。自国第一主義、保護貿易に走る米国と、不正な貿易慣行を続ける中国の双方に自制を促した形だ。世界貿易機関(WTO)改革に名を借りトランプ氏を丸め込んだとの見方もある。

 プラスチックごみの排出ゼロに向けた「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」や、国際的なデータ流通を話し合う「大阪トラック」枠組み創設は評価したいが、実効性に関してはこれからが正念場といえよう。パリ協定などを巡っては不完全さが残った。

 安倍首相は「意見対立でなく共通点に光を当てた」と誇った。裏を返せば妥協のレベルを下げたとも受け取れる。今後も世界経済は米中交渉次第との構図は変わらず、長期戦への覚悟を持ち続けなければならない。

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