【越山若水】まちなかより自然のなかがいいというアウトドア派には、たき火がこたえられないらしい。じっと眺めていて飽きないのは火の力。家族や仲間とかわす何げない会話も楽しい。それには、皆を包む暗闇の力もあずかっているだろう▼「ガッテン」でおなじみの立川志の輔師匠は、故郷の富山県でこんな経験をしている。高校の同級生に頼まれたホテルの大広間での一席。客は、折り目正しいスーツ姿の若い社員たち150人。最前列には社長ら幹部▼この席順はやりにくい、と思った通り、いろんなマクラをふっても空気が硬い。そこをなんとか柔らかくしたころだった。会場がいきなり真っ暗になった。停電である。どよめきが起こった瞬間、志の輔師匠の口を突いて出た言葉は「何だ、ここは北朝鮮か!?」▼十数年も前の話である。きわどいが反射的な冗談でもある。ともかく、ここでどっと沸いて会場が一つになった。暗闇では社長もヒラもなく、後は爆笑につぐ爆笑。一人一人と師匠が「マンツーマンでつながったようでした」(「志の輔の背中」毎日新聞出版)▼面白いのは、この客というのが時代の最先端をいく通信会社だったこと。彼らは人と人がつながる環境づくりが仕事。速く、大量に、鮮明にと突き進むなかで停電に出くわした。そして爆笑。「原始的な暗闇の力」に何を感じたか。師匠ならずとも興味深い。

関連記事