【越山若水】江戸時代、鉄砲を武士よりたくさん持っていた農村があったという。例えば関東のある藩は、大名の所有が80丁。ところが領内の村々には計158丁があり、104丁の隠し鉄砲まであった▼別に農民たちは、一揆をもくろんだわけではない。農作物の鳥獣害を防ぐには鉄砲に頼るほかなく、名主が掛け合って所有・使用を許された。いわば、欠かせない農具の一つだった。以上は「鉄砲を手放さなかった百姓たち」(武井弘一著)に教えてもらった▼東京と埼玉の境に「トトロの森」で知られる狭山丘陵がある。同書はここで18世紀に起きた出来事を記している。御用木を得たり、狩り場としたりするのに武家が管理した「御林」があって通常は伐採や鳥獣駆除が制限されたが、ある所で樹木伐採が行われた▼すると、すみかにしていたイノシシやシカは別の山に移動した。今度はその周辺に動物があふれ、獣害が激しくなった。これはたまらない、というので、そこでも伐採事業が行われたがこれが全くの逆効果。獣害の地域がさらに広がる結果にしかならなかった▼このごろ福井県で、ニホンザル出没のニュースが目立っている。彼らは人に慣れやすく、脅しても効果がすぐ薄れてしまう。小柄に見えて腕力も侮れない。昔も今も、自然との付き合いや鳥獣害が悩ましいのは同じ。まさか隠し鉄砲を持つわけにもいかないし。

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