【論説】1年ぶりに開かれた党首討論では年金を巡る質疑に多くが割かれた。「95歳まで生きるには2千万円の蓄えが必要」と試算した金融審議会ワーキンググループ(WG)の報告書が国民不安を招いたためだが、安倍晋三首相は制度の安心を訴えるばかり。年金改革などを訴えた野党党首との議論はかみ合わなかった。

 というのも5年に1度、年金制度の健全性をチェックする財政検証がいまだに示されないからだ。「100年安心」の根拠がないままでは議論しようもない。政府は早急に示し衆参両院の予算委員会で熟議に付すべきだ。参院選を前に不都合なものにふたをするような姿勢は許されない。

 本紙が加盟する共同通信社の全国電話世論調査では、公的年金制度について「信頼できない」と回答した人が63・8%に上った。麻生太郎副総理兼金融担当相がWG報告書の受け取りを拒否したことを「問題だ」とした人も71・3%を占めた。国民の年金や政府の対応に対する不安、不満は解消されないままだ。

 首相は報告書の試算を「平均値」とし「実態は多様」と火消しに躍起になるが、74・3%が自分の老後の生活に経済的な不安があると回答した。低年金・無年金者も多くいる。そうした人たちをどう救っていくのか、真摯(しんし)に向き合うべきは政治しかない。

 全体で45分間しかない党首討論で議論は深まるはずもない。ただ、野党党首からは医療・介護を含めた総合合算制度で所得に応じて自己負担の軽減を図るといった提案がなされた。さまざまな方策を議論する姿を国民は求めている。財政検証は「政局とは関わらず」などとする首相の姿勢こそ不安を増幅しかねない。

 国会の財政金融委員会では年金制度の根幹に関わる議論は望めない。麻生氏は報告書が「政府の政策スタンスと違う」と受け取りを拒否したが、老後の資金不足は厚生労働省の資料などが基になっている。さらに麻生氏は、報告書がホームページに掲載されているから「隠蔽(いんぺい)には当たらない」と述べている。詭弁(きべん)としか言いようがない。

 加えて、自民党の森山裕国対委員長は「報告書はもうないわけですから、予算委にはなじまない」と予算委開催を拒んでいる。首相ら全閣僚が出席する予算委こそ、論点が多岐にわたる年金問題を議論する場に適しているはずだ。

 報告書が示す月額の不足分は5・5万円だが、専門家の試算では30年後に9・7万円にまで拡大、必要な資産額は約2800万円にもなるという。同種のデータは情報番組などでも広まっている。政府、与党は参院選での争点化は避けられないとみるべきだろう。

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