体操のNHK杯を棄権し、涙ぐみながら取材に応じる村上茉愛=武蔵野の森総合スポーツプラザ

 日本体操協会が6月8日に東京都内で開いた理事会は、5月のNHK杯を腰痛で棄権した女子のエース村上茉愛(日体ク)を特例で世界選手権代表入りさせることの是非を巡り、大激論となった。

 最終的に特例を設けることは否決されたが、協会の女子強化本部が一度発表した選考基準を変えてまで特定の選手を優先的に選考しようとした事実は消えない。一連の混乱は後味の悪さを残した。

 体操協会の世界選手権や五輪の代表選考基準は、男女とも原則、全日本選手権とNHK杯、全日本種目別選手権の各選考会での成績を基に自動的に決まる内容になっている。

 今年の女子の選考基準は、個人総合のNHK杯で上位4人が代表に決定。残る一人は「NHK杯12位以内(ナショナル強化選手)」から、団体総合で最も貢献できる選手を3大会の成績を踏まえて決めることになっていた。

 NHK杯を棄権した村上は最後の一人に選出されるための条件を満たせず、今年就任した田中光・女子強化本部長は「代表入りできなかったことは非常に痛い」と、代表の可能性がなくなったとの認識を示していた。

 昨年だったら、今回の議論は起きていなかったかもしれない。

 しかし、日本女子は今年の世界選手権が2020年東京五輪の団体総合出場枠を獲得できるラストチャンス。エースを欠けばノルマ達成へ一気に余裕がなくなるため、田中強化本部長はNHK杯後に救済案を検討する考えを示し、トップ選手の指導者らで構成する強化本部で議論を始めた。

 当初検討されたのは「NHK杯12位以内(ナショナル強化選手)」を「NHK杯12位以内“または”ナショナル強化選手」の意味に「解釈を広げる」(田中強化本部長)案だった。

 ナショナル強化選手は強化本部の推薦でもなることができるため、村上を推薦すれば最後の一人になれる条件はクリアする。

 だが、村上は選考会の一つとなる4月の全日本選手権で高得点をマークしたため、最終選考会となる全日本種目別選手権の結果にかかわらず、この案が認められた時点で代表入りに当確ランプがともることが予想された。

 5枠目を争う他の選手にとっては全日本種目別を前に代表入りの道が事実上閉ざされることになるため、不公平感から強化本部内にも反対意見が噴出。意見がまとまらず、理事会に提案することができなかった。

 最終的に理事会では、村上の故障からの回復状況を確かめるため、全日本種目別で高得点を出せば特例で代表に選出するとの代替案が提案されたが「後付けはあってはならない」などの反対意見が上回った。

 選考会の成績で自動的に代表を決める方法は公平性はあるが、エース級の選手にアクシデントがあった場合、救済できない面も持つ。

 フィギュアスケートなどは、実績を考慮して代表を決める選択肢を含めた選考基準にしている。

 奇しくも今年の体操は男子のエース内村航平(リンガーハット)も故障の影響から全日本選手権で予選敗退に終わり、世界選手権の代表落ちが確実な状況。男女とも選考基準の在り方を見つめ直す機会になった。

 田中強化本部長は理事会後「本番で一番強い選手を使えるよう、選考方法を考えていかないといけない」と話した。

 各競技団体は東京五輪に向け、選考基準づくりを進めている。公平性を保ちながら、かつベストの選手を送り出すためにはどういう基準であるべきか。

 体操に限らず、各団体は慎重に議論を重ねていかなければならない。

中嶋 巧(なかじま・たくみ)プロフィル

2007年共同通信入社。松江支局、大阪支社経済部を経て13年2月から運動部。17年10月から平昌五輪・パラリンピック取材のため現地支局長を務め、18年3月から再び運動部。体操、スポーツクライミング、そり競技を担当。宮城県出身。

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