【越山若水】梅雨の鎌倉ならアジサイは見逃せない。色とりどりに咲く長谷寺か、歴史的な青の花の明月院か。それはお好みの問題ですから…とタクシーの運転手にたしなめられて両寺ともに見た▼長谷寺は盛りには少し早かった。北鎌倉の明月院はほぼ満開で、ヒメアジサイの「明月院ブルー」が評判通りに鮮やかだった。どこもかしこも絵になるので、スマホの群れが交錯しながら盛んに電子音を響かせる。ナマを見るよりも撮る。奇妙な光景も見ものだった▼とはいえ、本当の目的地は近くの東慶寺。「批評の神様」といわれた小林秀雄の墓がある。石段を登り、かやぶきの門をくぐって100メートルほど歩いた参道の外れ。もとは狭い窪地(くぼち)だった所に端座するように五輪塔があった。苔(こけ)むして花もないのが、かの人らしかった▼満足した。すると、その後に出会いがあった。「釈宗演老師没後100年」の記念展が寺内で開かれていた。老師の名に覚えがある。ほかでもない、福井県の偉人である。禅を世界に広め、円覚寺と建長寺の両管長を退くと、この寺の住職となって再興したのだった▼〈縁なき衆生を済度する松ケ岡〉。これは山号を使って東慶寺を詠んだ川柳。ここは明治まで男子禁制の縁切り寺だったのである。女性が駆け込めば寺法によって離縁できた。荒廃していたのを釈老師が立て直し、簡素でそれは美しい寺になった。

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