【越山若水】手紙を書くとき、不作法をわびる決まり文句がある。急いでいる場合なら、冒頭には「前略」「急啓」と記すのがおなじみ。末尾は「草々」「不一」で締めくくり、謝罪の意を伝える▼わが国を代表する作家の一人、芥川龍之介もこの習わしを踏襲した。まとまりのない内容、なぐり書きになってしまったときには「乱筆不尽」と許しを請う。ちょっと奔放すぎる発言で、不快感を与える恐れがあるときは「妄言多罪」という慣用句を使用したらしい▼こうした言葉の真意はどこにあるのだろう。「すごい言い訳!」(新潮社)の著者、中川越さんはこう見る。前もって非礼を表明すれば非常識の批判は免れ、おためごかしの言い訳でも相手は安心する。謙虚に見せることで暴言、失言の不満を回避する作戦だという▼「夫婦の老後資金、年金では2000万円不足」―。金融庁が公表した報告書が日本中を騒がせている。将来の年金不安はうすうす感じていたが、政府与党は「100年安心」と言い続けてきた。そこに「妄言多罪」の断りもなく、大金を用意せよとのご託宣である▼かてて加えて、麻生太郎金融担当相の言動も筋が通らない。審議を求めた張本人なのに、「政府の政策スタンスと違っている」と報告書の受け取りを拒否する始末。こちらは「妄言多罪」の文言があっても、参院選にらみの思惑が見え見えである。

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