【越山若水】植えたばかりの苗が実り多きことを、田の神に祈る。ときに、生まれたばかりの子どもになぞらえて、つつがない成長を願うこともある。各地に伝わっている田植えまつりである▼民俗学者の神崎宣武さんは、かつての農村社会にとって、春の田植えまつりは最も大切なまつりだったと説いている。収穫を祝う秋まつりでは? と不思議がる方もおられると思うが、その疑問には「社をもたない神々」(角川選書)で次のように答えている▼収穫祭は、一般には氏神さまの祭礼として続いてきた。氏神制度は江戸期に普及し、さらに明治の神仏分離以降に、いよいよ重要になった。神々に新穀を供えるという形でありつつ、政治的な統制という側面が働いていた▼田植えまつりは、権威とは無縁であり自然信仰などの原始の形である。早苗、早乙女などと、清らかさを表す接頭語「サ」を用語に冠し、わが子同然の稲に悪(あ)しき作用がないようにした。農民たちの思いに神崎さんは尊さをみる▼巳(み)年と亥(い)年にしか行われない「高浜七年祭」が23日始まる。みこしの勇壮さは全国でも指折りで、太刀振りなど芸能の華やかさや力強さ、曳山(ひきやま)の美麗さもよく知られる。たくさんの見どころの中で、幕開けを任されるのが、あくまで厳かな神事「お田植え」である。静かな時間から、伝統を受け継ぐ人々の息吹がきっと伝わるのではないか。

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