【越山若水】小説家の田辺聖子さんの訃報によぎる軽妙な金言がある。「ひらかなで考えたらええねンよ。ひらたい言葉で伝わることはほんまは多いから」。その真意がいまひとつ測りかねるとき、格好の解説書になる本をご紹介したい▼令名はすっかり周知されただろう。「令和」の元号を考案したとされる万葉学者中西進さんの「ひらがなでよめばわかる日本語」(新潮文庫)。そもそもの日本人の心を知るのに「まず漢字を取り払ってみましょう」と勧めている▼歯と葉と端。漢字でかけば別物ながら、古代の日本人は皆おなじものと見なして「は」といった。それぞれがある位置や役割が似かよっているからで、形態が違っていても区別しない。そんな考え方だったそうだ▼遠い昔の人々が「幸せ」をどうとらえていたのかも、福井人なら知りたいところ。手がかりは古語の「さきはひ」にある。「さき」は「咲き」。「はひ」は「あぢはひ(味わい)」などと同じで、ある状態が長く続くこと。二つが合わさって、花が咲き満ちている状態を指す▼幸福度日本一の県に住んでいても「幸せって何?」と聞かれると口ごもる。何となく満たされた気分? いやいや、心の中が花であふれているように感じることだよ。そんなふうに、祖先たちは考えていた。幸福観に限らない。頭でっかちでない「きわめて具体的」な感覚にあこがれる。

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