【論説】安倍晋三首相が、現役首相として41年ぶりにイランを訪問する。核合意からの米国の一方的離脱後、イラン情勢は世界の重大な懸案の一つ。首相訪問が米・イ両国の仲介役を果たすのであれば歓迎したい。

 ところが、訪問を直前にして、首相周辺や外交筋から「対話のテーブルに導くのは至難の業」「情勢が厳しすぎる。過大な期待はしてほしくない」などの声が漏れ始めた。成果が上がらないことを見越しているのなら、何が目的の訪問なのか。本気度を問いたい。

 急浮上したイラン訪問の背景には、先月12日にサウジアラビアなどのタンカーが攻撃を受けた事件があるだろう。米国はイランの関与を断定、イランは「陰謀だ」としている。

 この後に見られた米国の動きは、どたばたしていた。中東への米兵増派が最大1万人とも、12万人とも伝えられたが、トランプ大統領が同24日に発表したのは1500人。米政権内の戦略が統一されていない可能性がうかがえる。

 米国としても不慮の衝突は避けたいはずだ。しかし核合意の当事者のうち中ロとは対立している。英仏独は、政権基盤の不安定さや、安全保障、貿易を巡る米国との関係などで、課題を抱えている。日本は核合意当事者ではないが、イランと友好関係がある。トランプ氏が5月の日米会談で首相のイラン訪問を支持したのは、現状ではほかに手がないということだろう。

 一方のイランも、タンカー攻撃事件後の16日、ザリフ外相が外遊日程を急きょ変更して来日。首相に仲介を依頼した。米政権内の強硬派でなく、トランプ氏本人にメッセージが伝わることを期待したとみられている。ザリフ氏は「日本は何ら行動を取っていない」と非難めいた発言もしたが、それだけ米国との衝突回避に必死なのではないか。

 米・イが緊張緩和に向かうためのハードルが高いのは確かだ。ポンペオ米国務長官は2日、「前提条件なしで対話に向き合う準備がある」と言いながら、イランが普通の国として振る舞うことが必要、と“条件”めいた話を持ち出し、ロウハニ大統領の反発を買った。ロウハニ師は米国こそ普通の状態に戻れ、と主張。対立は激しさを増している。さらにタンカー攻撃事件で、被害を受けたサウジなどが国連を舞台に、名指しこそ避けながらもイラン包囲網を強めている。

 事態は「訪問することに意味がある」といえるような局面ではなく、世界が具体的成果に注目している。首相に万一、国内の選挙対策などという腹づもりがあるなら、手ひどい失敗が待つだけだ。首相は対話実現に向け、どんなカードを用意できているのか。

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