長男を刺殺したとして逮捕された元農林水産事務次官の熊沢英昭容疑者=6月3日、都内

 元農林水産事務次官が引きこもりとみられる長男を刺殺したとして逮捕された事件や、引きこもりがちだった男による神奈川県川崎市の20人殺傷事件は、福井県内の関係者にも大きな衝撃を与えている。引きこもりの家族を持つ80代男性は「事件が連鎖し自宅でも起きるのではないかと、毎日ビクビクしている」と吐露。引きこもりの経験者は「家族は本人の心の安定を最優先してほしい。味方であり続けてほしい」と訴えた。

 ■家族の思い■

 元事務次官の熊沢英昭容疑者(76)は長男について「引きこもりがちで家庭内暴力もあった」と供述している。引きこもりの家族を持つ福井県内の80代男性は「(引きこもりの)本人が扉を思い切り閉めたりすると怖くなる。自分たちも殺されるのではないかという不安がある。本人も同じ思いだろう。一般の人には想像できない世界」と話す。

 引きこもりの息子を持つ60代女性は「(元事務次官がやったことは)許されないが、理解できる」と涙ぐんだ。

 事件後、ある子ども食堂には「そこに行けば不登校が治ると聞いたんですが…」といった家族からの電話がかかってきた。食堂運営者は「ご家族はわらをもつかむ思い。社会の支援体制は十分だろうか」と疑問を投げかけた。

 ■根深い問題■

 「引きこもりは感受性が豊かな人が多い。『甘えや怠け者』とは違う」と指摘するのは不登校の子を持つ親の会「やよい会」の代表世話人、中嶋良三さん(79)=福井市。「本人や家族は、社会全体のプレッシャーによって追い込まれている。ただそのプレッシャーの正体を明確にする思想は、まだ生まれていない。本人や家族は毎日を命懸けで生きている」と問題の根深さを語った。

 複数の子どもが不登校だった経験を持つ同市の40代女性は「引きこもっているときは、エネルギーをためている時期だと理解してくれる社会であってほしい。『生きているだけで百点』という気持ちがみんなにあれば、悲惨な事件は防げたかもしれない」。引きこもりという言葉が、犯罪と結びついて広がることを危ぐする。

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