【論説】取り調べの全過程の録音・録画(可視化)を義務付ける改正刑事訴訟法と、捜査のために電話やメールを傍受する際に通信事業者の立ち会いが不要になる改正通信傍受法が今月、全面施行となった。

 両改正法は、2010年に発覚した大阪地検特捜部の証拠改ざん隠蔽(いんぺい)事件という前代未聞の不祥事をきっかけに、「検察の在り方検討会議」や法制審議会で議論され、16年5月に成立。段階的に施行されてきた。

 取り調べの可視化は、裁判員裁判対象事件と検察の独自捜査事件で義務付けられた。密室での自白強要が冤罪(えんざい)を生むとの批判は以前からあり、検察、警察ともに09年の裁判員裁判導入前から取り入れ、順次拡大してきた。このため、現在は義務化対象事件のほとんどで実施されている。

 課題は対象が全事件の3%程度にとどまっていることだ。裁判員裁判事件以外への拡大や逮捕される前の任意段階、参考人の聴取などは対象になっておらず、冤罪防止には不十分と言わざるを得ない。

 運用面の課題も指摘されている。検察は導入議論の段階で、録音・録画することで供述が得にくくなるとして、可視化に反対したが、試行を重ね、最高検は15年2月に犯罪事実の証拠として活用するよう指示した。供述調書を補完するのが本来の目的だったが、積極活用に転じた格好だ。

 ただ、導入から今年で10年を迎えた裁判員裁判では、書面より法廷での生の証言を重視する流れが定着してきている。さらに、映像を根拠とした有罪認定を違法とした判決もあり、評価が定まっていないのが実情だろう。

 一方、検察や警察が可視化により捜査がやりにくくなることの代償に求めたのが通信傍受の拡大であり、昨年6月に導入された司法取引制度だ。

 改正通信傍受法は薬物など4類型に新たに放火や窃盗など9類型が加えられた。今までは電話会社の施設に出向いていたが、警察施設内で立ち会いなしでできる。裁判所の令状が必要なのは変わらないものの、乱用やプライバシー侵害への懸念は拭えない。

 司法取引は他人の犯罪解明に協力する見返りに自らの刑事処分を軽くしてもらう制度。日産のゴーン前会長の事件で注目された。うそをつき他人を陥れる可能性も否定できず、厳格なチェックが欠かせない。

 通信傍受と司法取引は実績がまだ少なく、今後運用が増える中で、さまざまな問題点が表面化する可能性がある。取り調べの可視化も含め、不断の見直しは欠かせない。捜査側には何より、冤罪を生まないという原点を常に肝に銘じ、適正な運用を求めたい。

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