【論説】1989年6月4日に北京で、民主化を求める学生や市民の運動を軍が武力弾圧した天安門事件から30年。天安門広場では今、移動派出所や特別警察部隊が配備されるなど、異常な厳戒態勢が敷かれているという。市民の抗議活動を恐れる当局の自信のなさの表れともいえるのではないか。

 事件は、この年4月に死去した改革派指導者、胡耀邦(こようほう)元共産党総書記の追悼を機に起きた。多数の学生たちが広場に座り込んで民主化を求めたが、軍は広場に突入し鎮圧した。当局は死者数を319人と発表。党・政府は事件を「政治風波(騒ぎ)」と位置づけ、弾圧を正当化してきた。

 中国はこの30年、経済成長を推し進め、米国に次ぐ経済大国にのし上がった。7年前に最高指導者となった習近平(しゅうきんぺい)国家主席は、汚職官僚を摘発する反腐敗闘争という政治的引き締めと、自らへの個人崇拝を強めてきた。昨年3月の憲法改正で国家主席の3選禁止規定を廃止、長期政権への道筋をつけ、独裁体制を強固なものにした。

 一方で民主化どころか情報や言論に対する統制強化を推し進めてきた。監視カメラや顔認証などで民主化や少数民族運動を取り締まり、天安門事件といった都合の悪い言葉はネットから削除させるなど統制を強めるばかりだ。監視社会、人権蹂躙(じゅうりん)を容認する国が世界第2位の経済大国であることに恐怖すら覚える。

 経済的に豊かになれば民主化に向かうはずだ、と米国や欧州などは高をくくっていた。10年後には米国を抜き世界1位の経済力を保持するとの観測もある中で、危機感をあらわにしたのが昨年10月のペンス米副大統領の演説だ。米中貿易摩擦、中国の軍備増強や強引な海洋進出、さらには非民主的な政治制度を激しく非難した。

 今年4月の先進7カ国(G7)外相会合は共同声明で中国の人権活動家やウイグル族、チベット族への弾圧について懸念を明記した。非民主的で強国路線を走る中国が米国をしのぐ大国になることには国際社会も警戒感が強い。日米欧は結束して中国の民主化を促す必要がある。

 気がかりなのはトランプ米大統領が人権問題に関心がないことだ。来年の大統領再選に向けて成果を誇るため、安易な妥協をする恐れが否めない。世界経済を失速させかねない米中貿易摩擦を早急に解決に導くことは重要だが、中国に民主化へかじを切らせることも粘り強く求めるべきだ。

 安倍晋三首相は蜜月と称するトランプ氏にくぎを刺す一方で、今月末にある20カ国・地域(G20)首脳会合の議長国として中国側に自制を促すべく先導しなければならない。

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