【論説】列島は先週末から季節外れの暑さに見舞われ、福井県でも3日連続の真夏日を記録した。一方、その前後には激しい雨が降った地域があり、鹿児島県の世界自然遺産・屋久島では登山客が一時孤立に陥った。荒っぽい天候が続く中で、これから大雨の降りやすい時季が本番を迎える。幸い重症者はいなかったが、屋久島の件を軽く見ることはできない。備えをいま一度、確かめる必要がある。

 屋久島は年間降水量が平地でも約4500ミリと雨が多く、それが屋久杉など豊かな自然を育んでいる。しかし、5月18日の雨量439・5ミリは観測史上2番目と、記録的なものだった。登山道などに濁流が押し寄せ、314人が一時下山できなくなった。

 この日、急に雨脚が強まったのは午後からで、気象庁が1時間に約120ミリの猛烈な雨が降ったとみられるとして「記録的短時間大雨情報」を発表したのは夕方である。朝の段階では入山中止の基準となる「大雨警報」は出ておらず、気象庁のデータを見ても正午までに降った雨は16ミリ程度にすぎない。登山客を連れて山に入ったある山岳ガイドは早朝の気象について「地元では雨と呼べないほど弱かった」と証言している。

 午後の時間雨量を50ミリとする予報はあったが、もともと多雨の地域。この情報だけで登山中止の判断にはなかなか至らないのだろう。屋久島の自然をよく知るはずのガイドの間でも登山実施か中止かで判断が分かれ、結果的に多くの登山客が入山していった。

 一方、別のガイドは早朝、観光名所「縄文杉」に向かうルートを実際に確認していた。普段から水があふれやすい場所の水量が異常に多いと感じて中止を決めたという。データだけに頼らず、経験から導かれた英断だった。

 こうした専門家の経験を情報として共有することは防災に有効なはずだ。現地ではガイド約160人にアンケートを行うなどして、今回の孤立から教訓をくみ取る動きが進んでいる。荒木耕治・屋久島町長は入山基準を作り直し、気象庁の予報とガイドの経験を織り交ぜたものにする意向という。福井県においても大いに参考にしたい考え方だ。

 昨年はさまざまな自然災害が列島を襲ったが、今年は今のところ大きな被害に遭っていない。それだけに、屋久島のケースはどこかに油断があったかもしれない。屋久島町の担当者は、既に大勢の孤立が報道されていた19日になっても登山を続けた人がいたとして、「命に関わる判断は慎重にしてほしい」と呼び掛けている。過去のデータからは想定しがたい災害が、時と場所を選ばず起こり得ることを再認識したい。

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