成長段階の環境と心、脳の関わりについて説明する藤澤隆史講師(左)と友田明美教授=5月29日、福井県永平寺町の福井大学松岡キャンパス

 福井大学子どものこころの発達研究センターは5月29日、米国の大学との共同研究で、虐待など避けるべき養育(マルトリートメント)を経験した子どもについて、愛情ホルモンとも呼ばれる「オキシトシン」の働きと、社会性をつかさどる脳の一部の容積、人への愛着形成に関連性があることを解明したと発表した。治療効果の“見える化”や、精神疾患のリスク予防といった活用法が期待される。

 研究は同センターの藤澤隆史講師と、米国エモリー大医学部の西谷正太客員助教を中心に実施。マルトリートメント経験後の時間経過が少ないなどとして、国内の6~20歳の男女85人を対象にオキシトシンの働きの変異と脳の画像データ、医師の口頭質問による愛着形成について調べた。

 調査結果から、マルトリートメントを経験した児童(マルトリ児)は、経験していない児童(非マルトリ児)と比べ、オキシトシンがうまく働かなくなっていることを解明。社会性をつかさどる脳の一部「前頭眼窩皮質」の容積も小さく、容積に比例し愛着形成が不安定であると結論づけた。

 今月9日、世界的に有名な英国科学誌「Nature」系で、神経精神薬学の学術誌「Neuropsychopharmacology(ニューロサイコファーマコロジー)」に研究論文が掲載された。29日に福井大学松岡キャンパスで行われた記者発表で、藤澤講師は「オキシトシンの働き方の変異が非定型な脳発達を招き、マルトリ児の不安定な愛着形成に影響を及ぼしているのかもしない」と推測。さらに研究が進めば、マルトリ児に行った心のケアや薬剤投与、環境の調整が良い方向へ向かっているかの判定材料として活用できるとし「経過を追跡し明らかにしていくことが必要」と話した。

 全国の児童相談所が2017年度に対応した児童虐待相談数は約13万4千件で過去最多。研究責任者の友田明美・同センター教授は「マルトリ児と非マルトリ児の違いを科学的に解明し、介入していく必要がある」と指摘。今回の研究により「環境的な要因で子どもの発達の軌跡が変わることが分かった。支援者にとっても大きな励みになるはず」と話した。

関連記事