【論説】安倍晋三首相とトランプ米大統領の11回目となる首脳会談が行われた。首相にとっては令和初の国賓として招いたことで「日米同盟の強固な絆」を国内外に示したかったのだろう。しかし、共同記者会見では日米貿易交渉の見通しや北朝鮮が今月上旬に発射したミサイルを巡る捉え方などで隔たりがのぞいた。

 貿易交渉に関して、トランプ氏は「8月に大きな発表ができる」と述べ、夏の参院選後の決着を提起した。片や安倍首相は茂木敏充経済再生担当相とライトハイザー米通商代表による閣僚級協議を「加速させることで一致した」と述べるにとどまり、防戦一方の体だった。

 農産物輸入では日本側が環太平洋連携協定(TPP)の範囲内を防衛ラインとしているのに対して、トランプ氏は「TPPに縛られない」などと語気を荒らげる場面もあった。首脳同士が突っ込んで議論したのか、疑念を抱かざるを得ないシーンだ。懸案を先送りする首脳会談では、いずれ軋轢(あつれき)が表面化するのは必至だろう。

 北朝鮮のミサイル発射を巡っても、トランプ氏は「核実験をせず、長距離ミサイルも発射していない。非核化は急いでいない」と問題視しない考えを改めて表明。一方の首相は国連の制裁決議に反する短距離弾道ミサイルであることを強調した。日本にとって中短距離ミサイルは脅威以外の何物でもない。強く迫るべきなのに、首相はトランプ氏の北朝鮮に対するアプローチを「支援していく」と及び腰に終始した。

 米国が制裁を強化するイランに関して、首相は長年の良好な外交関係を背景に「橋渡し役」を務める考えを明らかにしたが、具体的な進め方などは言葉を濁した。スタンドプレーとみなされ、トランプ氏の逆鱗(げきりん)に触れる可能性があるからだろう。「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交」を発揮し参院選の成果にしたいとの思惑が透ける。だが、結局は米国の意向に沿った動きしかできないのではないか、そんな限界を感じさせた。

 首相には対立を恐れず、日米の隔たりを埋める努力を求めたいところだが、一連のやりとりを見ると、予測不能で直感を頼りにするトランプ氏に主導権を握られているとの印象は拭えない。そもそも共同声明を見送るとした段階で、「お祭りムード」に水を差すことを懸念した日本側の姿勢が見てとれる。

 トランプ氏の狙いは来年の大統領選であり、そのためには同盟国の日本にも容赦なく迫ってくる。激化する米中貿易摩擦では、日本経済への影響も出始めており、景気が腰折れ寸前にある今だからこそ、苦言を呈すべきなのだが…。

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