裁判員制度を紹介する冊子を持ち経験を語る男性。経験は自らの人生史に深く刻まれた=福井県福井市内

 「主文」。裁判長が口を開いた瞬間、裁判員の男性(51)は法廷にいた被害者の顔を見ることができなかった。今年、福井地裁で開かれた裁判員裁判。判決は検察側の求刑より軽かった。「被害者はどう感じているのだろうか…」との思いが頭を駆け巡った。

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 初公判の約1カ月半前、男性宅に裁判員を選ぶ「選任手続き」の呼出状が届いた。早速会社に報告、当日は有給を取った。裁判所の受け付け番号札をもらった。出席者は31人。事件の概要が知らされ、関係者であるかどうかなどを記入する質問票に筆を走らせた。

 「選ばれるかも」「いや選ばれないだろう」「せっかくの機会。選ばれたい」。期待と不安が交錯した。

 くじで選ばれた番号がモニターに表示された。「20番」。自分だった。まさかと思ったが、頑張ろうと気持ちを切り替えた。

 「1人の人生を左右することになる。生半可ではいけない」。先入観を持たないよう、インターネットで類似事件を調べることはしなかった。公判にはスーツで臨んだ。被告や証人の発言内容はもちろん、声色や表情の細かな変化も見逃さないよう気を張った。

 4日間の公判と評議のうち、特に印象に残ったのは終盤に行われた被害者家族の意見陳述。「家族も苦しんでいる」と涙ながらに訴える姿に「家族構成が自分と似ていたこともあり、胸が締め付けられた」と振り返る。

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