練習で指示を出す水球男子日本代表の大本洋嗣監督=5月2日、富山市

 確たる根拠があるわけではないが、何かやってくれそうな気がするのだ。

 水球の男子日本代表。来年の東京五輪で、「台風の目」となってくれるのではないかと楽しみにしている。

 世界的には決して強豪国ではない。近年は五輪切符すら手にすることに苦労し、2016年リオデジャネイロ五輪出場は実に32年ぶりの大舞台だった。

 それも、1勝もできずに敗退。一旗揚げようと息巻いていた選手、スタッフは落胆に包まれた。

 東京五輪に向けても、残念ながらメダル候補に挙げられるには至っていない。

 なかなかスポットライトが当たらず、申し訳ないがわれわれも取材機会が多いとは言えない。

 ただ、男子の日本代表は壮大な野望を抱いていて、非常に味わい深い。

 世界をリードするとの気概の下、戦術はどの国もやったことのない超攻撃的なシステム。さらにフェアプレーを推進し、競技そのものの魅力を高めようというのだ。

 水球は「水中の格闘技」とも呼ばれる。つかみ合いが多く、水面下でもラフプレーが必要悪とされてきた競技だ。

 激しい攻防は競技の醍醐味ともされてきたが、男子の日本代表は、こうしたダーティーな部分をなくすべく、革新的なプレーを展開する。

 簡単に説明すると、前掛かりな陣形でパスカットを狙い、速攻につなげるというもの。

 失点のリスクは高いが、それ以上にゴールを奪おうとする、ある意味で捨て身の作戦だ。

 さらに、ボディーコンタクトを避ける戦い方のため無駄なつかみ合いが減り、反則も少なくなる。

 速攻重視で試合のテンポも上がり、見ている人を飽きさせないというメリットもある。

 敏しょう性と機動力を最大限に生かすという面では、日本人に向いている戦い方とも言える。

 代表を率いるのは、大本洋嗣監督。昨年、女子の日本代表をフェイスブックで中傷したとして、日本水泳連盟からけん責処分を受けた「SNS騒動」の当事者だ。

 結果として女子選手を傷つけたこと自体は許されるものではなく、表現や手段は配慮に欠けていたと思う。ただ、根底にあったのは、フェアプレーと競技発展への強い思いだ。

 当該の投稿は、ラフプレーに対して批判的な見解を記したものだった。

 監督の持論はこうだ。「フェアプレーなきスポーツに未来はない。反則ありきのスポーツを、子どもに自信を持って教えられますか。誇れますか。親だったら、子どもにやらせたいと思いますか。だいたい、格闘技だって厳格なルールがあるのに、水中の格闘技だなんて格闘技に失礼だ」。そして日本の戦い方は「確実に世界の主流になる」と真顔で訴える。

 自他共に認める怖いもの知らずの性格で、多少大げさに語ってはいる。

 数年前にこうした水球改革への思いを初めて聞いた際は、正直、私も半信半疑だった。

 そもそも、リオ五輪出場が決まるだいぶ前から「東京五輪での金メダルを見据えて強化する」と豪語していた。

 しかし、導入から数年たった独自の戦術は世界でも評価されつつあり、日本の成績もじわじわ上昇。強豪国を脅かす試合も増え、昨年は世界トップチームが集まるワールドリーグで史上最高の4位に食い込んだ。

 ただ単に「勝ちたい」「メダルを取りたい」という「目標」にとどまらず、何のために結果を出すのかという「目的」が大切だ。

 という言葉は、陸上男子ハンマー投げで活躍した室伏広治氏や、競泳日本代表の平井伯昌ヘッドコーチがしばしば強調している内容の受け売りだが、水球の日本代表はまさにその目的が明確だと感じる。

 日本がクリーンで、かつ見ていて面白いプレーで結果を残せば、競技の魅力が増し、競技人口も増えるだろう。

 さらに話が仰々しくなるが、東京五輪での結果の先に何を見据えているかによって、大会後の日本社会におけるそのスポーツの価値、存在感が大きく左右されるのではないか。

 メダルを取って盛り上げることも大会の成否につながる一つだが、そればかりではないだろう。

 水球の日本代表のように、メッセージのこもったすがすがしい戦いぶりはきっと世の中に訴えかけるものがある。

 その姿から何かが伝われば、スポーツの価値を見いだしてもらえるのではないかと思うし、結果としてメダルに結びつけばどれほど素晴らしいことかと、番狂わせを期待せずにはいられない。

菊浦 佑介(きくうら・ゆうすけ)プロフィル

2006年共同通信入社。福岡支社運動部、大阪支社社会部を経て、10年5月から本社運動部で水泳、スピードスケート、東京五輪などを担当。鹿児島県出身。

関連記事