【論説】作戦にミスや見落としがあったというなら、次に生かすこともできる。だが、「戦略不在」だったと敗北後に聞かされては、あきれるほかない。韓国の日本産水産物輸入禁止を容認した世界貿易機関(WTO)の判断に関して政府は「全体としての戦略を練っていなかった」と認めた。安倍政権は怠慢を猛省し、東日本大震災被災地の産業支援に今度こそ政府挙げて本気にならなければならない。

 韓国は福島第1原発事故以降、対象地域や品目を細かく指定しながら輸入規制の導入・一部緩和を繰り返していたが、2013年9月、8県の水産物全面輸入禁止に踏み切った。当時はすでに、世界各地で輸入規制撤廃の動きが見られ始めていた。韓国の措置は根拠がないとして、日本は15年8月にWTOに提訴した。

 一審に当たる紛争処理小委員会は、放射線量などの科学データから日本産食品の安全性を認め輸入規制を不当としたが、先月の上級委員会(二審)が一審判断を破棄。日本は逆転敗訴が確定した。要因に、米国が上級委の委員任命を拒み審理体制が不十分なこと、食の安全規制は各国の裁量で行うべきだとの意見が根強いことが指摘される。

 だが、最大の問題は、一審後の政府の油断ではないか。科学データへの過信から「二審も勝てる」と思い込み、備えを怠った。16日の自民党会合で外務省側は「専門家と弁護士に任せすぎた」との反省を述べたという。韓国側は3週間にわたり、約20人がスイス・ジュネーブに泊まり込んで対応したと伝えられるのに比べ落差があまりに大きい。

 東京五輪・パラリンピックを復興の象徴に位置付けていることを引き合いに出すまでもなく、被災地の風評被害を払拭(ふっしょく)し農林水産業を発展させることは国家的優先課題。敗訴の際は「首相官邸も激怒している」と報じられたが、政府の無策があらわになった今、官邸自身の責任も問われよう。

 政府は、被災地の漁業者が、例えばホヤからワカメなどへと転換を図れるように支援する方針という。それも必要だとしても、では貴重な地域文化でもある「宮城のホヤ」の将来はどうなるのか。産業復興の展望は見えてこない。

 外務省は先月のWTO会合で多くの国・地域が日本を支持したという。だがこれはWTOの制度へ不満を示したとの解釈が可能だ。「日本産食品は安全」と言い切ってくれたのはサウジアラビアぐらいではないのか。楽観は戒めるべきだ。

 福島県など被災地では食品の生産・流通・消費の各段階で検査を行い、結果を公表する努力が続く。それを無にせず、安全性と品質を世界へ発信する取り組みを国は急がねばならない。

関連記事