【越山若水】複数の作業を同時にこなす「マルチタスク」が現代では重要なスキルと見なされる。もともとIT用語で、例えばスマートフォンで音楽を再生しながらメールを送るようなことを指す▼仕事が集中し職場がてんてこ舞いのとき、業務を並行して片付ける社員は一目置かれる。しかしそれは無理な話らしい。米の行動科学者は著書「この脳の謎、説明してください!」(青土社)で、人間が同時に二つ以上の物事に注意を払うことは不可能だと断言する▼スマホでメールを打ちながら車を運転している場合、脳の機能を半分ずつ使い分けていると思うだろう。だが目は一度に1カ所しか焦点を当てられない。道路を見ているとき画面は見られないし、その逆も同じである。実際は注意を素早く切り替えているだけという▼さらに人間の目は単なる光受容器で、生理学的にはその信号を受け取った脳内の視覚野が物体を感知している。処理中のタスクに関する何かを見ているとき、別の要件の情報が入ってきても脳は全く気付かない。一石二鳥の都合のいいことなんて、結局はあり得ない▼統一地方選で1カ月遅れの「春の交通安全運動」が20日まで展開中だが、痛ましすぎる事故が後を絶たない。警察庁統計ではスマホやカーナビを操作する「ながら運転」は常に事故原因の上位にある。マルチタスクは厳禁―。運転のイロハである。

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