【論説】濃縮ウランの貯蔵量制限など核合意の一部履行停止を表明したイラン。これに対してトランプ米大統領は即座に追加制裁で応じ、中東に空母や爆撃機を派遣する決定を行うなど、米国とイランの対立はエスカレートする一方だ。このままでは偶発的な事故や接触が軍事衝突に発展しかねない。

 穏健派のロウハニ大統領は核合意から離脱する考えはないとも表明。国内の対米強硬派を懐柔するためにも、履行停止という強い姿勢を見せる必要があったのだろう。米、イラン両国と関係の深い欧州は無論、日本も合意順守を働き掛け、対話に向かわせるよう努力を傾けるべきだ。

 核合意は2002年に、イランが秘密裏に核開発計画を進めていたことが発覚したのが発端。核兵器保有阻止を目指す米英仏中ロ(国連安保理の常任理事国)にドイツを加えた6カ国は15年、ウラン濃縮などの制限を条件に制裁解除を認めることで合意した。

 ところが、オバマ前政権の政策転換を図るトランプ政権が昨年5月に離脱を表明。8月に自動車部門などを対象とした制裁を発動し、11月にはイラン産原油の禁輸などに拡大した。

 米政権が問題視しているのは、核合意に完全な放棄や弾道ミサイル開発などが含まれていないこと。根底にあるのは、イランが1979年のイスラム革命以来、貫く徹底した反米姿勢だ。米友好国のイスラエルやサウジアラビアなどとも敵対。トランプ氏は封じ込めを図ると同時に、来年の大統領選で米国内の反イラン層の支持を取り付ける狙いもある。

 イランは制裁で通貨暴落、物価高騰、高失業率の三重苦にあえいでおり、一部履行の停止というカードを切ったのは、欧州などとの交渉で活路を開く苦渋の選択だったといえる。

 一方で今後60日以内に原油輸出などに関する交渉で前進がなければ、核開発に向けた動きを加速させるという。そうなれば、核合意は崩壊し、さらなる軍事的緊張や中東での核開発の連鎖につながりかねない。

 ロウハニ師は「核合意は世界の安全保障にとって極めて重要」と述べた。離脱は欧州を含めた国際社会からの制裁、孤立を招き、自国が破綻しかねないという危機感があるからだろう。イランが歩み寄りを求めているのは間違いない。米国もフック・イラン担当特別代表が「話し合う用意がある」と述べている。

 ミサイルなどを含む包括的な交渉を行わずして、両国の歴史的な対立の解消はない。日本にとっても最悪の事態に陥れば、エネルギー安全保障上、死活問題だ。両国に自制を求め、早急に交渉を進めるよう促さなければならない。

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