【論説】歩み寄る余地があっての威嚇なのか、決裂寸前の最後通告なのか。「中国への追加関税を10日に引き上げる」との方針を示したトランプ米大統領の真意を巡り、世界が動揺している。

 前者であれば、きょうから始まる米中の閣僚級協議で、中国側が何らかの譲歩を示す可能性はある。懸念されるのは後者の場合であり、米中貿易戦争が再燃すれば、両国は無論、世界経済全体が再び混乱に陥ることは必至だ。日本にとって景気減速は、令和の祝賀ムードや大型連休による好循環などを一気に吹き飛ばしかねず、10月の消費税増税も見通せなくなる。

 一方で、中国が譲歩した場合、米国の次なる矛先は日本に向く。来年の大統領再選を目指すトランプ氏は日本にも強硬姿勢を打ち出してくるだろう。いずれにしても日本への影響は免れず、安倍政権は難しいかじ取りを余儀なくされる。

 米中貿易交渉は昨年12月にトランプ氏と習近平(しゅうきんぺい)国家主席との首脳会談で、知的財産権の保護など、中国の構造改革策をまとめることで一致。米政権は当初「90日協議」とし3月1日を期限としていた。その後、交渉は長引き150日を超えたが、国営企業への補助などの問題で改革策を詰め切れていないとされる。

 トランプ氏にとって安易な妥協は、覇権をかけた交渉とみる国内の対中強硬派から批判が噴出する恐れがある。そこで中国に一段の譲歩を迫った格好だ。片や習氏にとって、国営企業の優遇策は体制維持という生命線に関わるものだ。米メディアによると、協議の最終局面になって「後退姿勢」を示したという。

 だが、再び「関税合戦」に突入すれば、追加関税の負担増に苦しむ米企業や、報復関税で打撃を受けている米農家らがトランプ氏支持から離れるのは避けられない。景気刺激策でようやく底を打ったとされる中国経済も再び急減速することは確実だ。「経済強国」を目標に掲げる習指導部への信頼は揺るぎかねない。

 これまで断続的に閣僚協議を持ち、トランプ氏も「大きな進展があった」と繰り返すなど妥結ムードが広がっていただけに、各国には寝耳に水の驚きが走った。米中の株安は世界に波及し、日本でも連休明けの市場は2日連続で300円台の大幅安となった。

 米中両国は世界1、2位の経済大国として責任ある対応を示すべきだ。米国は威嚇では長期的な安定関係は到底築けないことを自覚する必要がある。中国は改革の姿勢を示さずして自由貿易のけん引役を名乗れるはずもない。閣僚級協議では合意点を探り、懸案は引き続き交渉を行うことも視野に、最悪の事態だけは回避しなければならない。

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