陸上の木南道孝記念、男子100メートル決勝、10秒21で優勝した山県亮太(左)と2位の多田修平=ヤンマースタジアム長居

 スポーツは「暦」でもある。

 旧暦では、ちょうど大型連休の最終日にあたる5月6日が立夏。これから夏の本番がやって来るわけだが、毎年、大型連休を迎えると、陸上競技にとってはトラックシーズンが本格化したことを意味する。夏と同様、これからが本番だ。

 5月6日には、大阪のヤンマースタジアム長居で「木南道孝記念」が行われ、男子100メートルでは山県亮太(セイコー)、社会人になったばかりの多田修平(住友電工)の対決に注目が集まった。

 見どころは、昨季好調だった山県が、オリンピックを翌年に控え、どのような状態にあるのか。山県の場合、初夏の調子が良ければ、その状態を維持できることが多く、ここでいい走りができれば、今シーズンへの期待が高まる。

 もう一つ、2017年に爆発的なスタート力でブレイクスルーした多田だったが、昨年は100メートルをトータルでマネジメントする発想に変えたところ、得意のスタートの力が失われ、精彩を欠いた。

 関西学院大学を卒業して4月からは拠点を移し、どのように立て直しを図っているのか。木南記念は二人の「現在地」を見るには絶好の場だった。

 レースは、山県と多田が隣同士のレーン。ただしスタートのやり直しがあり、これではタイムが出ないと思った。

 100メートルの場合、集中力を極度に高めるので、一度集中が切れてしまうと立て直すのが難しい。

 2度目のスタート。あろうことか、合図が鳴ってから多田はバランスを崩してしまった。

 100メートルでは最初の数歩での重心の移動に高度な技術が必要で、スターティングブロックを蹴り出したパワーを、どのように走りに移行させるかがポイントになる。

 ここで多田は体勢を立て直すのに力を使ってしまった。

 多田が好調だった2017年のシーズン、世界選手権のスタートでは世界記録保持者のウサイン・ボルト(ジャマイカ)の先を行った。まだそこまでの爆発力は戻っておらず、スタートに課題を抱えているようだ。

 この結果、多田は山県にわずかしか先行できず、勝負はこの時点でついていた。

 案の定、山県は中盤から滑らかな加速で並びかけ、かわした。

 ただし、スタートでバランスを崩した多田をとらえるにしてはややタイミングが遅く、加速にダイナミズムが感じられなかった。

 結果は山県が10秒21で1着、多田が10秒28で2着。9秒台を期待している関係者にとっては、やや物足りないタイムだった。

 山県はスムースな走りを見せてはいるものの、昨季との比較となると、やや不安なところもある。

 最高速へと移行する美しい加速がまだ見られていない。ただし、「立夏」の時点としてはまずまずと捉えた方がいいだろうか。

 山県、多田は11、12日に横浜で行われる世界リレー2019に日本チームのメンバーとして登場する。

 9秒98の日本記録保持者・桐生祥秀(日本生命)も参戦するこの大会、スプリンターの状態が上がっていることを期待したい。

生島 淳(いくしま・じゅん)プロフィル

1967年、宮城県気仙沼市生まれ。早大を卒業後広告代理店に勤務し、99年にスポーツライターとして独立。五輪、ラグビー、駅伝など国内外のスポーツを幅広く取材。米プロスポーツにも精通し、テレビ番組のキャスターも務める。黒田博樹ら元大リーガーの本の構成も手がけている。

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