電柱の上で巣作りするコウノトリペア=4月25日、福井県坂井市内

 2019年2月から福井県の坂井市と福井市を転々としていた国の特別天然記念物コウノトリのペアが、坂井市内の電柱に“定住先”を決め本格的に営巣した。集落の住民が刺激しないよう申し合わせ、電力会社は地元の声に応えて集落の電気系統を迂回させるなど、地域挙げての見守りで、ペアも仲むつまじく安心した様子。住民は「よくぞこの場所を選んでくれた。無事にひなが産まれてほしい」と県内55年ぶりの野外繁殖に期待を寄せている。

 ペアは18年5月、越前市大塩町の人口巣塔で有精卵を産んだ兵庫県豊岡市生まれの4歳の雄と6歳の雌。卵はカラスに持ち去られ、近くの畑で割れた状態で見つかった。

 ペアはいったん福井を離れたものの、19年2月下旬に坂井市内で行動をともにする様子が確認された。その後、テクノポートの鉄塔(同市)や福井市波寄町の電柱など、さまざまな場所に営巣し始めたが「コウノトリの感電やけが、停電の恐れがある」として北陸電力は撤去してきた。

 地域住民らの「地元に定着してくれたら」との声を受け、北電は「安全な形で巣を作ってほしい」と、電柱の頂上に枠を組むなど安全対策を実施。しかし、ペアは対策を講じた場所から移動して別の場所で営巣。「いたちごっこ」を40回以上繰り返し、4月19日ごろになってようやく“安住の地”を定めた。

 ペアは高さ14メートルの電柱の頂上に枝などを集め、3日間ほどで十分な大きさの巣を作り上げた。「巣を残してほしい」という集落の声を受け、北電は同23日、集落一帯を一時停電にして変圧器を別の電柱に新たに設置するなど、電気系統を変更する作業にあたった。

 住民によると、この集落周辺の水田は化学肥料や農薬の使用の減らす環境配慮型の農業を行っている。田んぼでは餌となるカエルなど生き物の鳴き声が響いており、2羽は近くの畑や田んぼで餌を食べているもよう。交尾する姿も度々見られ、最近では巣に伏せる様子も見られるという。

 巣の近くに住む女性(67)は「一時的な停電は大変だったけれど、電気工事までしてくれてうれしい。ひな誕生まで温かく見守りたい」。集落の区長(69)は「子どもが減る中、勇気をもらっている。毎朝顔を見られて本当にうれしい。無事に子育てに成功してくれたら」と願った。

 県自然環境課はペアを刺激しないように、150メートル以上離れた場所から観察することや、巣を見上げないよう呼び掛けている。住民たちは「事故が起こることのないように、静かに見守ってほしい」としている。

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