べにやの跡地で再建への思いを語る奥村隆司社長=福井県あわら市温泉4丁目

 福井県あわら市温泉4丁目の老舗旅館「べにや」の全焼から5月5日で1年。2020年夏の営業再開に向けた動きが着々と進んでいる。4月には「新べにや」の基本設計の大枠を固め、明治期の「べにや光風館」という名称や自然豊かな土地柄を踏まえた、異なる世界観を持つ17部屋を設ける計画。奥村隆司社長(51)は「支援していただいた方々への恩返しの意味でも、あわらを明るくする一助になりたい」と決意を新たにしている。

 火災は、昨年5月5日午後0時50分ごろ発生。いずれも木造2階建てで、国登録有形文化財(建造物)の本館、中央館、東館の計約3100平方メートルを全焼した。奥村社長は「皆さんに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。焼け跡を見るのも、においや風評被害などで周辺の旅館に迷惑をかけるのも本当につらく、不安な日々が長く続いていた」と振り返る。

 一方で火災以降、1500人以上からお見舞いが届き、以前の宿泊客や市民らによるチャリティーイベントも開かれた。こうした支援の手が後押しとなり、昨年8月ごろからは新旅館のコンセプトを探るため、従業員や取引先を集めたワークショップを開催。がれきの撤去を終えた9月には「2020年夏までに営業を再開したい」と具体的なプランに言及していた。

 基本設計は「和風」のコンセプトはそのままに、以前の23室からは減るものの、月が見えたり庭が楽しめたりと、異なる世界観を持つ17室を設ける計画。平屋建てで全室温泉付きとし、各部屋にはプライベート空間と食事を取るダイニングを整備する考え。ベッドやテーブル、椅子なども取り入れ、多様な客層に対応できるデザインにするという。今夏の着工を予定している。

 奥村社長は「のれんを守りたいとの思いで動きだしてはみたものの、道のりは険しく重圧を感じることも少なくなかった」という。奇跡的に焼け残ったシンボルの樹齢約250年のシイの大木を前に「やると決めたからには前に進むしかない」と力を込めた。

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