【越山若水】レガシーをつくる、なんて気取って聞こえる言い方を耳にするようになったのは、リオ五輪のあった2016年あたり。さあ今度は東京だ、と声が高くなって新語・流行語大賞の候補にも挙がった▼レガシーは「遺産」と訳される。ではユネスコの世界遺産も「レガシー」なのかといえば、英語ではワールド「ヘリテージ」となる。違いは…恥ずかしながらよく分からない。分かるのは東京のレガシーづくりは、どうやら高く付きそうだということくらい▼きのう、JR福知山線脱線事故の追悼慰霊式があった。乗客ら107人が亡くなった悲劇から丸14年。兵庫県尼崎の現場で式が営まれたのは初めてだという。例の、あの場所だ。9階建てのマンションに電車が突っ込み、先頭車両がぺしゃんこになった所である▼惨事の現場を残してほしい、いや見たくない、と遺族らの意見が割れていた。JR西日本は結局どうしたのかと思っていたら、右と左の真ん中を取ることにしたようだ。マンションの5階から上を取り壊し、全体を大屋根で覆って追悼施設「祈りの杜(もり)」を造った▼つまり、傷跡があらわに見えるわけではない。が、現場は確かに保存されている。遺族の葛藤を思えば、妥当な折衷策だろう。さて、これはレガシーかヘリテージか。区別がつかないからでなく、遺産と答えたい。それも相続放棄できない遺産だ、と。

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