「赤ちゃんを取り上げるたびに、幸福感に包まれた」と話す中山茂樹さん=福井県小浜市多田の中山クリニック

 取り上げてきた赤ちゃんは、およそ1万2千人-。福井県嶺南地方でお産を扱う数少ない医療施設を経営してきた小浜市の産科医、中山茂樹さん(65)が引退した。昼夜を問わず働いてきたが、1月で産科を閉じた。「元気な赤ちゃんの泣き声を聞くと幸福感に包まれる。何人取り上げてもそれは変わらない」と柔和な表情で振り返る。嶺南でお産ができる医療施設は4カ所のみとなった。

 中山さんは滋賀県大津市出身。東邦大学(東京)で医学を修め、産科医として働き始めた。1985年ごろから小浜市内の病院に移り、95年に独立して「中山クリニック」(同市多田)を開業。妻の真里子さん(64)も内科と小児科の医師で、難産や帝王切開が必要な手術の時には必ず立ち会い、夫婦二人三脚で対応した。

 1年間に約250~400人超を取り上げ、小浜時代だけでも約1万人のお産に携わった。「予想外のことが起こるのが出産」と、出産後に出血が止まらなくなる弛緩出血には注意を払ったという。

 「患者やその子どもが身構えてしまうから」と気遣い、白衣は着なかった。夜中に緊急の電話が掛かってくると、家族を起こしてしまうため、ずっと病院に寝泊まり。急な出産に備えて「熟睡したことはなかった」。

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