所属契約会見でポーズをとる川内優輝(中央)と、あいおいニッセイ同和損害保険の金杉恭三代表取締役社長(左)、婚約者の水口侑子さん=4月3日、東京都内

 4月第2週、新入社員のスーツ姿がまだまだ目立つ時期だ。

 スーツがフィットしていないフレッシュマンの姿を見て、自分、あるいは家族の“仕事”について、いろいろと考えをめぐらせる季節だが、陸上競技では長距離の「プロランナー」という職業が、成立するようになった。

 これまで「公務員ランナー」として抜群の知名度を誇っていた川内優輝は、この4月から独立してプロランナーとしての活動をスタートさせた(所属はあいおいニッセイ同和損害保険)。

 日本のプロランナーの歴史を振り返ってみると、その嚆矢(こうし)ともいえるのは、ロンドンオリンピック代表だった藤原新氏(現・スズキ浜松ACコーチ)である。

 藤原氏がプロ表明したのは2010年のことだったが、当時も今も、日本の長距離界は企業による福利厚生が手厚いケースが多く、会社に所属するメリットがはっきりとしていた。

 たとえば、地方や海外の大会に出場したとすると、それが出張扱いになり、会社側のバックアップが選手の活動を支えていた。

 東京オリンピックの開催を控え、マラソンに対する注目が高まっている今、プロランナーとして活動していける土壌が十分に育ってきた。

 中でも、マラソンの日本記録を持つ大迫傑(ナイキ・オレゴン・プロジェクト)は、アメリカに拠点を移して大きな成功を収めているし、青山学院大で「山の神」として名を馳せた神野大地(セルソース)は、プロとして活動しているうちに支援に名乗りを上げる企業が現れた。

 マラソンランナーに、経済的な価値が認められるようになったのである。

 現状を眺めていると、プロランナーとしてスタートするための「条件」のようなものが見えてくる。

 まず、大迫や神野のように、箱根駅伝で優勝経験を持ち、実績を残すことで知名度をある程度獲得していること。

そして、9月に行われる東京オリンピックの選考レースである「マラソングランドチャンピオンシップ」に出場できる実力を持っていることは、当然のことながら欠かせない。

 加えて、川内のように強烈なキャラクターを持っていることも大きな武器になる。

 川内の場合、公務員でありながら走り続けたこと、そして世界を舞台に毎週のようにレースに出続けることで、確固としたキャラクターを確立し、プロとして活動していくことが可能になった。

 今後、日本の長距離界はどんな構図になっていくのだろうか。

 実業団で走り、引退後は社業に専念する道もこれまで通り存在するだろう。やはり、企業のバックアップがあってこそ、競技の裾野は広がる。

 一方で、日清食品グループのように活動を縮小させる企業も出てきた。

 そうなると、自分の判断によって海外で合宿を行ったりできるプロランナーの価値が相対的に上がってくるだろう。この流れが東京オリンピックを挟んで、どのようになっていくのか目が離せない。

生島 淳(いくしま・じゅん)プロフィル

1967年、宮城県気仙沼市生まれ。早大を卒業後広告代理店に勤務し、99年にスポーツライターとして独立。五輪、ラグビー、駅伝など国内外のスポーツを幅広く取材。米プロスポーツにも精通し、テレビ番組のキャスターも務める。黒田博樹ら元大リーガーの本の構成も手がけている。

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