【越山若水】声の大きい人に悪い人間はいないそうだ。後ろ暗いところがないから、という俗説だ。当方は時々「え?」と聞き返される。つまり声が小さいので、うらやましい▼福井県の新知事に杉本達治さんが当選した。選挙中、接してみて驚いた人もいるに違いない。声が大きい。しかもよく通る。その声で現職の分厚い壁を破った▼支持組織の結束が固かったのもあるだろうが、間もなく「令和」に移る状況が後押ししたかもしれない。新時代を目前に「新しい風を」との訴えがぴったり合った▼評論家の故谷沢永一さんに「変革期」と題する一文がある(「人間通」新潮選書)。書かれたのは米ソ冷戦が終わったころで「豪傑型」に代わり「治世型」のリーダーが求められる、と指摘している▼その資質のなかでも「先見力」を重んじた。国外へ向けていた目を内へ転じ、社会構造を編成し直すためだ。スケールは違えど、地方のリーダーにも当てはまる卓見だろう▼杉本さんは長く総務官僚であり、わが福井県の総務部長や副知事も務めた。申し分のない行政経験である。その上に先見力を望むのは欲張りだろうか▼「いい人に政治家は務まらない」という。八方美人は各方面にいい顔をして利害の泥沼にはまる―そんな意味だろうが、我らがリーダーは有能で真に「いい人」でいてほしい。大声善人説を証明してもらいたい。

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