【越山若水】おとといの号外や、きのうの朝刊ほどではないにしろ、それは大きな扱いだ。終戦後間もなく復刊した夕刊紙の1面に「おや指のあたまぐらい」の活字で載った▼〈天高く月夜のカニに御座候(ござそうろう)〉。焼け跡で消沈する大阪市民を励ましたいと新聞が募集し、1位になった句だ。浪(なに)花(わ)の庶民は「タハハハ」と腹を抱えたそう▼月夜にはカニは月光を恐れて餌をあさらないので、身がやせるといわれる。折しも食欲の秋。だが食糧不足。ワテがカニですわ、との自虐が笑いを誘ったのだった▼小説家の田辺聖子さんの「川柳でんでん太鼓」(講談社)にある。本紙の1面を飾った「令和」の文字は親指の頭の倍以上もあった。反響も倍以上かはともかく、新しい風が世を吹き払うかのようだ▼新元号ゆかりの地を多くの人が訪れ始め、あやかり商戦も活発化している。沈滞気味だった国内景気がにわかに良くなったようにも映るのが不思議である▼わが福井では寒の戻りのごとく雪がちらつき、思わず首を縮めるような寒風が吹く。それでも、もう数日もすれば桜花爛(らん)漫(まん)、気分も晴れるだろう▼現実生活でも食品や乳製品が値上がりした。財布は細るばかりだ。そんなわびしさを詠んだ句がある。〈かかるときポンと出したい金がない 川村伊知呂〉。誰かに文句を言いたくなるが「タハハハ」と笑って新時代を迎えるとしよう。

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