でも、Aさんの趣味であるスポーツを、そのような形ですぐ仕事につなげられるでしょうか。そもそも、自分の好きなことにお金を払ってくれる人がいるだろうと思うのは早計です。自分の好きなことは市場から対価を得られる商品やサービスなのか。そこを慎重に吟味してから「仕事に」する必要があります。

筆者がAさんに「市民向けマラソン教室」による収入の見込みを聞くと、「いやぁ、そんなことはまだ考えていないですよ」とおっしゃいます。筆者はAさんの「老後のキャッシュフロー」が気になりました。

そこで、退職金の見込みを伺うと約1000万円、預貯金も約1000万円とのこと。一見すると恵まれているようですが、ねんきん定期便を確認したところ公的年金は65歳から受給開始です。これからも毎月続く家賃などの支払いを考えれば、Aさんは定年後もできるだけ長く働き、収入を得ていくことが必須でした。

それからしばらくして2回目の面談にお越しになったAさん、会社の退職金制度の詳しい資料も手に入り、「定年後の生活をリアルに考えられるようになった」とおっしゃいました。毎月決まった給料が入る会社員生活が長くなるにつけ、「お金を稼ぐということに対し、甘い考えになっていた」とも。

結局、Aさんは65歳までは会社の再雇用制度で働き続け、マラソン教室はボランティアとして取り組むほうがいいと判断しました。「定年まで少し余裕がある今の段階で、将来の暮らしを具体的に考えることができたのは、本当によかった」と納得の様子でした。

早期退職は「早く自由になる」分、その後の熟慮が必要

次は、会社でのキャリアと“好き”を「掛け算」することで新たな仕事につながり、収入の見込みも立ったケースを紹介しましょう。

Bさん(51歳)は、勤め先が吸収合併され、職場も閉鎖となり、「退職金が上積みされるのなら」と早期退職の道を選びました。料理が好きな彼女は「食の仕事をすることが夢です」とおっしゃって、退職後は調理師の勉強を始めるのだそうです。

早期退職金は約1500万円。大きなお金を手にして、ゆっくり勉強ができると喜んでいらっしゃるBさん。筆者は「その退職金は年収の3年分ですよね。もともと60歳の定年まで残り9年の時点で受け取ったお金ですから、使い道は吟味したほうがいいですよ」と、まずお声がけしました。

Bさんはねんきん定期便を持参して、筆者に見せてくれました。当然ながら、そのねんきん定期便は「60歳まで現在の給料が継続する」前提で計算されたものです。いまBさんがお仕事を辞めれば、老齢年金は減額されます。「退職しても、ねんきん定期便の見込み金額をそのまま受け取れる」と思っていたBさん、「当てが外れました……」と困惑顔です。

一方で、Bさんは勤め先では医療関係の仕事を続けており、彼女と同じく早期退職して次のステップに進もうという同僚と、時々集まっては今後のことを相談していました。

そうした中で、今度は介護の仕事を始めるという同僚から「一緒に働きませんか」とBさんは誘われていました。いろいろ話を聞いてみると、同僚が勤めることになった介護施設の評判は上々です。入所者の自律訓練のプログラムはもちろん、口腔ケアや嚥下障害のリハビリなど「食」の側面からもきめ細かなサービスを提供していました。

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