【論説】「完全に潔白だ」と語ったトランプ米大統領がこれを機に、どう変化していくか、要注意だろう。2016年の米大統領選にロシアが介入した疑惑を巡り、モラー特別検察官の捜査報告書はトランプ陣営とロシアの共謀が認定されなかったとし、疑惑捜査への司法妨害の疑いについても判断を見送った。

 政権当初から抱えてきた最大の疑惑に対するこの報告書は、来年の大統領再選を目指すトランプ氏にとっては大きな追い風といえる。大統領が外交や通商交渉で強硬姿勢に打って出る可能性も否定できない。日本は4月以降にも開催される対米新貿易交渉で「ディール(取引)」を強いられかねず、米中協議などトランプ氏の出方を慎重に見極める必要がある。

 報告書の内容は、モラー氏から提出を受けたバー司法長官が議会に送った4ページの概要書間で明らかになった。そのバー氏はトランプ氏の指名を受けて長官に就任し、モラー氏の捜査方針を批判してきた人物であり、民主党は報告書全文の公開を要求している。バー氏が拒否した場合、強制力のある召喚状を出すなど曲折も想定され、不公表だと分断が深まりかねない。

 特に司法妨害の疑いは、モラー氏が「大統領が罪を犯したと結論付けないが、潔白を証明しているわけではない」と報告書で言及した一方、バー氏は司法妨害を疑うには「証拠不十分」との見解を示した。民主党は疑いは晴れていないとして追及していく構えだ。

 腹心の元顧問弁護士が議会公聴会で、トランプ氏の不倫問題を巡って口止め料を支払い、トランプ氏が分割払いで補填(ほてん)していたことなどを証言。不動産ビジネスに関連した違法行為や脱税などさまざまな疑惑で連邦検事の捜査対象となっており、「無罪放免」とは言い難い状況にある。

 とはいえ、トランプ氏にとってこの書簡は朗報であることは間違いない。メキシコ国境の壁建設では、予算捻出のため非常事態宣言を出し、議会が無効とする決議に対しては就任後初の拒否権を発動。強硬姿勢に拍車が掛かるとみられる。

 内政では今後も民主党との確執は避けられず、外交や通商交渉で成果を誇りたいとの構図は変わらない。先月の2回目の米朝首脳会談は物別れに終わり、成果はなかった。だが、安易に妥協しなかったことが、かえって米国内での評価につながったとされ、自信を深めたのではないか。妥結が近いとの観測がある対中貿易交渉でも、長期戦に持ち込み、中国側から小出しに成果を引き出す手法が考えられる。

 そうした交渉術は日本にも向けられる懸念がある。新貿易交渉で日本側は農産品などモノの関税に限定する物品貿易協定(TAG)としているが、米側はサービスや為替問題など幅広い分野で日本の市場開放を迫ってきそうだ。4月下旬にも行われる日米首脳会談で、安倍晋三首相は増長するトランプ氏とどう向き合うかが試金石となろう。

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