【越山若水】いくつか、音を思い浮かべてほしい。「パチパチ」と拍手のような揚げ物。「ジョワッー」と焼ける肉。具材が「グツグツ」揺れる鍋。「トントン」とリズミカルな包丁とまな板も良い▼食事で働く五感は視覚が一番大きいけれど、次点は聴覚だそう。情報量にして7~11%。キッチンからの音は「その先」のテーブルへと期待をかきたてる▼この話を読んだのは、少々意外な場所だった。料理本やレシピのブログではなく、スイス・ジュネーブにある日本政府代表部のサイト。公邸料理人が書いた記事である▼外交と食事は切っても切れない関係だ。昨年、南北会談が実現したときは平壌(ピョンヤン)冷麺が話題になった。先月の米朝会談は昼食会の中止が「決裂」を象徴した▼料理人たちは招待者の出身地にちなんだ食材選びはもちろん、目の前で調理したり、BGMにこだわったりと、「聴覚の味わい」にもこまやかに配慮する▼国際機関が集まるジュネーブで日本のラーメンが人気とか。「SUSURU」という店もあるから音を立てる食べ方は受け入れられたはず。そうでないとおいしくない▼各国の外交官が、カウンターに並んで仲良くすすりこんでいるのだろうか。折しも現地では、宇宙空間での兵器使用が話し合われている。会議の合間のラーメンで意気投合し、未来の宇宙戦争を防いだ―なんていうことが起こるかも。

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