【論説】体操の宮川紗江選手が昨年、パワハラを受けたと訴えた問題で、日本協会の特別調査委員会が宮川選手に反省文提出を求める報告書をまとめた。「決定的な証拠がない中で発言し、強化本部長の信用を傷つけた疑いがある」などが理由。だが、強い違和感がある。問題なのは協会のガバナンス(組織統治)であって、反省すべき主体は被害を訴えた選手でなく協会ではないのか。

 パワハラ問題は、第三者委員会が協会の委任により昨年12月に調査報告をまとめていた。今回、反省文提出を協会に提言したのは同報告を受けて開かれた特別調査委で、協会監事が委員長を務め、協会長、同常務理事2人がメンバー。協会理事会も、特別調査委の報告を承認した。

 第三者委の調査報告を振り返ると、塚原千恵子女子強化本部長らの言動を「決定的問題があるとまで断定できない」とし、パワハラとは認めなかった。一方で、宮川選手が会見するに至った事情は「宮川選手からみれば面談時の(本部長らの)態度が終始高圧的で、パワハラと感じさせてしまっても仕方がない」などとくみ取っている。問題の根底に協会のガバナンス不備やコミュニケーション不足があり、それが組織内に選手選考などへの不信感を生じさせていたと明確にしていたのである。

 宮川選手が協会内の相談窓口を利用しなかったことも反省文を求める根拠になっている。しかし、第三者委の調査報告は「通報者保護の規定がなかった」ことが利用しなかった理由と明らかにしていた。やはり、協会のガバナンス上の問題点が背景にあったとの指摘である。

 第三者委の報告を受けて協会は、特別調査委と同時に「提言事項検討委」を設置。▽選手選考の透明性確保▽強化本部長の権限の明確化▽内部通報者保護規定の制定―などに取り組むことを決めた。国民的人気競技である体操界において、こうした組織改革が動き出したことは歓迎したい。

 しかし、この動きのきっかけこそが、宮川選手の提起だったはずである。第三者委が報告の結論部分で掲げた提言は、協会が「組織改善に真摯(しんし)に向き合う」ことだった。選手に反省文を求めた対応は、協会側の意識が不十分なことを物語ってしまっている。協会は、この問題でメディアで発言した幹部らにも謝罪文などを求めたが、組織としての責任はどう考えるのか。

 宮川選手は既に反省文を提出、4月の全日本選手権での復帰を目指して練習に励んでいるという。早く気持ちを切り替え、競技に集中したいのが本音だろう。

 協会は「選手ファースト」のために何をすべきか、改めて議論を重ねないといけないのではないか。今回を契機に、選手に寄り添う組織に生まれ変われるかは協会次第である。声を上げた選手を後から非難するような手法は、全国・地方を問わず、あらゆる競技団体において繰り返してはならない。

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