【論説】大阪府の松井一郎知事と大阪市の吉村洋文市長がそろって任期途中に辞職願を提出し、入れ替わりダブル選に打って出た。松井氏が代表を務める「日本維新の会」と地域政党「大阪維新の会」の悲願である「大阪都構想」の実現に向け「奇策」を繰り出した格好だ。一方、自民党は松井氏らの行動を「行政の私物化」「党利党略」などと批判。本命だった俳優に出馬を断られるや、すぐさま松井氏の下で副知事を務めた小西禎一氏を擁立に動いた。

 松井氏らは投開票日が同じ来月7日の府市両議会選での議席増を目指す考えだが、府民や市民の構想への関心は低いとされ、思惑通りに事が運ぶかは見通せない。ダブル選は2010年に当時の橋下徹知事が都構想を打ち出してから3回目。入れ替わりは過去に例がないという。そこには人々の暮らしや大阪の未来図といった視点は見えず「住民不在」の指摘は免れない。自民党の擁立劇にしても「打倒維新」の旗を振り、他党の結集を目指しているだけとも映る。

 都構想は政令指定都市である大阪市を廃止し、現行の24行政区を東京23区と同様の特別区に再編するもので、府と市の二重行政を解消し、行政を効率化する狙いがある。橋下氏が大阪市長だった15年5月に住民投票が行われ、1万票の僅差で否決された。これを機に橋下氏は政界を引退した経緯がある。

 この年11月のダブル選で当選したのが松井、吉村両氏。水面下で公明党に協力を求めてきたが、煮え切らない姿勢に反発。万博の誘致実現に加え、カジノを含む統合型リゾート(IR)誘致の有望視などを追い風に、一気に勝負に出たとの観測もある。ただ、同じポストでの出直し選挙だと当選しても任期は年内。入れ替わりなら任期は4年となり、任期中の衆院選を視野に、公明の譲歩を迫ることも可能との見方もある。

 公明や自民にもご都合主義がうかがえる。地方では維新の突出を阻みたいが、国政では協力を得たいとの打算があるのは否めない。そうした構図こそが「住民不在」以外の何物でもない。特に政権にとっては安倍晋三首相の宿願である改憲に維新の存在は欠かせない。松井氏らと気脈を通じているとされる菅義偉官房長官は、小西氏擁立に関し「コメントは控えたい」と素っ気なく、腰が引けている印象が拭えない。

 大阪府の日本経済に占めるシェアは、1970年の前回万博直後の11%超がピーク。近年は7%台前半で、愛知県に抜かれ3位と低迷している。府民にとって都構想は経済の底上げにつながるものとは見えていないのが現状だろう。同じテーマで住民投票を2度行うことに違和感もある。

 府民の目に「ポストのたらい回し」と映れば、議会の過半数獲得どころか、ポストを失うことにもなる。松井氏は「ここで勝負しなければ、死んでも死にきれない」と訴える。劇場型の政治か、真に大阪のためか、政治手法が問われる。

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