【越山若水】長野県南西部、岐阜県に近い妻籠(つまご)はかつて中山道の宿場町としてにぎわった。古い町並みは国の重要伝統的建造物保存地区に選定され、有数の観光地になっている▼自治体名称の南木曽町が示すように、木曽谷の南に位置する山紫水明の地である。そこで地元住民が昔から使っている「蛇抜け」という風変わりな方言がある▼土石流や山津波の意味で木々をなぎ倒し迫ってくる大蛇に見立てた。梅雨や台風の大雨に何度も見舞われ、犠牲者をしのぶ「蛇抜けの碑」も建立し教訓としている▼石碑の表面にこんな言葉が刻んである。「蛇抜けの前にはきなくさいにおいがする」「白い雨が降ると蛇抜けが起こる」。においや音は山崩れの前兆、辺りが白くなるのは1時間50ミリ以上の雨である▼災害が頻発する昨今では、気象・避難情報でよく聞く警戒ポイントだろう。それでも先人たちが経験を重ねて身に付けた教えが、今もなお通用する的確さには驚くばかりだ▼東日本大震災から早くも8年となったきのう、被災地の東北地方をはじめ、全国各地で追悼セレモニーが行われ、多くの人々が鎮魂の祈りをささげた▼惨劇の歴史は風化させず、被災地の無念と心痛も忘れない。そして災害列島と称される日本の住人として、いつわが身に降りかかるかもしれない懸念。「蛇抜け」のような教訓をずっと胸に刻み備えておきたい。

関連記事