芸術選奨新人賞に選ばれた谷崎由依さん=3月5日、京都府京都市内

 文化庁は3月6日、芸術分野の優れた業績を表彰する2018年度芸術選奨の文部科学大臣賞を、落語家の笑福亭鶴瓶さん(67)やシンガー・ソングライターの竹内まりやさん(63)、漫画家の荒木飛呂彦さん(58)ら19人に贈ると発表した。新人賞は11人で、福井市出身の小説家、翻訳家の谷崎由依さん(40)=京都市在住=が、シンガー・ソングライターの宇多田ヒカルさん(36)、俳優の蒼井優さん(33)らとともに選ばれた。12日に東京都内で贈呈式を行う。

 2007年に文學界新人賞を得てデビューし、文芸誌では活躍していたものの、なかなか本は出ず自らの小説としては3冊目。40歳の実力派に吉報がもたらされた。「10年近く出口の見えない時期を過ごした。賞は無縁だと思っていたので最初は夢かと疑った」と相好を崩した。

 「鏡のなかのアジア」は、チベットや台湾・九份(きゅうふん)、クアラルンプールなどアジアの土地をモチーフに五つの短編を紡ぐ。各地の風景や歴史を交えながら展開するのは、時代を超越した幻想譚。写本を通じて言葉の深淵(しんえん)に触れる少年僧を描く「…そしてまた文字を記していると」や、かつて熱帯雨林の巨樹だった男が時空を行き来しつつ語る「天蓋(てんがい)歩行」など、文体も視点も全く異なる世界を書き分けた。

 「アジアにフォーカスした原点にあるのは、曾祖母から聞いた昔の福井の記憶。アジアには古い日本とつながる懐かしい感じが残っている」。美化されたオリエンタリズムとは異なる自らのアジア観や、翻訳家としての言葉への疑問、違和感を基にした独特のルビ表現など、あらゆるアイデアを盛り込んだ。

 幼いころから小説家に憧れ、福井大附属中時代には演劇の脚本をリライトし、藤島高時代には短歌や詩に熱中した。28歳の新人賞で夢をかなえたが、長く著作は受賞作1冊のみ。デビュー10年で初の長編「囚(とら)われの島」(17年)が注目を集めるまで、文芸誌や訳書であらゆる文体や作風に挑んだことが糧になった。「書きたいことを書いて賞をもらえるなんて幸せ。私は好き勝手に書くべきなんだなと自信になった」

関連記事