国道162号の「沖の石大橋」から望む田烏の集落。左奥にはサバの養殖いけすが海上に浮かぶ=2018年7月、福井県小浜市

海岸沿いの棚田の一角にある二条院讃岐姫の住居跡。沖合に目をやると歌の題材となった大きな岩礁「沖の石」が見えた=2018年7月、福井県小浜市田烏

 福井県小浜市の市街地から内外海地区の国道162号を進み、奈胡崎トンネルを抜けると、左手に緑の棚田が広がる。その奥にある海岸沿いの集落が、百人一首の題材にもなりサバ漁が盛んだった田烏(たがらす)。高台からの眺望は、吸い込まれそうな絶景だ。

 ⇒5月からイベント「内外海田烏 海のステージ」

 「この道路ができるまでは、向こうの港から船で苗を運んできたんですよ」。地元の地域おこしグループ「たがらす我袖倶楽部」の副代表を務める山下善嗣さんが、今では名所となった棚田を案内してくれた。ここは同グループが2500個の明かりをともすイベント「棚田キャンドル」の舞台。美しさだけが際立つ風景の裏側には、先人たちの苦労があったのだと痛感する。

 棚田の一角には、集落と海を見下ろすように石碑がぽつんと建っていた。平安末期~鎌倉時代の歌人、二条院讃岐姫の住居跡だ。百人一首の詠み人として知られる讃岐姫はこう詠んだ。

 「我が袖は潮干に見えぬ沖の石の人こそ知らね乾く間もなし」

 平家討伐で挙兵し敗れた源頼政の娘である讃岐姫は、平清盛によって田烏に流されたと伝わる。ここから沖合に目をやると、大きな岩礁「沖の石」が見えた。京の都への思いを込めた讃岐姫の心境が、時を超えて見えてくるような気がした。

 棚田から下りて集落の中に入ると、へしこの加工場として活用されている旧田烏小学校校舎の隣に、田烏祭りで知られる天満神社がある。境内には「巾着網発祥の地」と書かれた碑と、立派な能舞台が目を引いた。明治から大正、昭和にかけてサバ漁で栄えた漁師町を象徴する一角だ。

 山下さんによると、かつては集落内で数十軒の民宿が営まれていた。海岸沿いの道路には宿泊客らがあふれ、地元住民が治安維持のために自警団を組織したほど。現在の閑静な雰囲気からは想像もつかない、にぎやかさが今も住民の記憶に強く残っているという。

 ここからさらに北のトンネルを一つ抜けると、巾着網漁船が数多く寄港した釣姫(つるべ)漁港に出た。「つるひめ」とも読む釣姫は1300年余り前、唐で学問を修めた藤原一族の淡海と、現地の女性との間に生まれた姫に由来するという説もあるという。

 海岸の遊歩道を進むと、地元で「明神さん」と呼ばれる明神崎が見えてくる。明神鼻灯台の近くの岩場には海蝕洞があり、山下さんは「夏場には岩の間から、素晴らしい夕日が見えるんですよ」と誇らしそうに教えてくれた。

 1960年代以降、一時は原発や火力発電所の候補地になり、漁業の盛衰もあった田烏。最近ではサバの養殖事業が始まりサバ専門店も進出、名所となった棚田はキャンドルイベントだけでなく、幻想的な光と音楽によるライブイベント「海のステージ」の舞台になるなど、集落には新たな活気が生まれつつある。山下さんは「自慢できるところがあれば、若い世代も残ってくれるはず」と今後への期待を込めた。(福井新聞記者による集落訪問企画として2018年7月18日に紙面掲載)

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 田烏の集落一帯を会場にしたイベント「内外海田烏 海のステージ」が、2018年に続き第2回として2019年5月24日に開幕する。若狭湾に面した棚田の特設ステージをメインに、今回は会期を2日間から10日間に広げる。同イベントの実行委員会はクラウドファンディングサービス「ミラカナ」で資金100万円を募集している。

 【支援はこちら】福井県小浜市。若狭湾の美しい海が見える棚田に“海のステージ”を

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