【論説】米中貿易協議を巡り、トランプ米大統領が妥結の意思を鮮明にし始めた。中国側も閣僚級協議結果を「進展があった」と評価しており、貿易戦争終結へ両国が動く可能性が高い。ただ、知的財産権保護や技術移転強要などの構造問題は対立が容易に解けそうにない。合意が中途半端なものになれば、外交成果が必要な米政権は貿易交渉の「次の標的」である日本への態度をより硬化させるだろう。政府は十分な備えが必要だ。

 トランプ氏は昨秋、貿易戦争で株価が一時急落して以来、早期妥結に傾いているとされる。来年の大統領選に向け、対中強硬姿勢を貫いて問題を長期化させるよりも、景気の安定を目指した方が得策との判断だろう。内政の失点を取り返したい、との思惑ものぞく。

 一方、中国の習近平(しゅうきんぺい)指導部にとっての懸念は3月5日に全国人民代表大会(全人代)開幕を控えていること。貿易協議の当初の期限は、その直前の1日。これが決裂し、追加関税を引き上げられる事態は避ける必要があった。米側の引き上げ延期表明は、中国側への配慮とみることもできる。

 両国が協議の進展を強調しているのは、こうした双方の事情があるためだ。トランプ氏は3月に行う米中首脳会談を念頭に「大きなニュースが1、2週間内にあるだろう」と述べ、妥結へ意欲を示した。

 ただ、それでも米中協議には決裂の懸念が消えない。貿易戦争の発端は知財保護、技術移転など中国の構造問題だった。トランプ氏はツイッターでこうした分野も含めて「進展があった」と述べたが、対立は解けていない、との見方が根強い。米国内の対中強硬派も不満を募らせるだろう。交渉を担当するライトハイザー通商代表は、妥結を急ぐトランプ氏と対立していると伝えられる。

 期限が延長された貿易協議で、構造問題が解決できるかは予断できないのが実情だ。決裂を回避し合意を優先するなら、構造問題は置き去りにされるケースも想定される。

 米中貿易戦争が収束すれば国際経済にはプラスだ。もう一つの国際的懸念である英国の欧州連合(EU)離脱が混迷を深めている中で、懸念材料が減ることは望ましいとはいえる。しかし、中国の構造問題は日本や欧州も問題視してきた。米国との協議で解決できなければ禍根として残り続けることになってしまう。

 米中交渉が終われば、4月にも日米貿易交渉が行われる。ライトハイザー氏は対日交渉の担当でもあるが、対中交渉で不本意な妥協を余儀なくされれば、日本に対し一層強硬に出てくる可能性がある。

 日米交渉は基本的に、米国の求めに応じて行われるのであり、日本は毅然(きぜん)として対応したい。ところが政府内には、交渉に前向き姿勢を示し、米国の心証を良くしようとの意向があるという。いかにも腰が引けている。米中会談の成り行きも踏まえながら、したたかに国益を確保しなくてはならない。

関連記事