しかし、1杯入れるのに1、2分ほどかけてじっくりと注ぐ神泡。ただでさえ忙しそうなパーサーにとってはかなり大変な仕事なのではなかろうか。

「いえ、パーサーは神泡専門として1人増やして乗務することになります。サントリーから当社に出向してもらっているので、ビールの注ぎ方もバッチリです。あ、もちろん当社のパーサーとしての訓練も受けてもらっていますよ」

東海道新幹線での車内販売を担当するジェイアール東海パッセンジャーズの浅賀教博営業推進部長はこう答える。つまり、現状のパーサーの人数に加えて神泡のために専門のトレーニングを受けたパーサーが1人増えるというわけだ。これなら、忙しそうだから声をかけるのをやめとこう……などという遠慮は無用である。

で、実際にデモを見せてくれたパーサーに聞いてみると、「結構練習しましたね。やっぱり泡とビールのバランスが難しくて。お客さまに失敗したものをお出しするわけにはいかないですから」。これなら安心して神泡を注文できそうだ。

実際に車内ではビールに加えて神泡に合わせて特別に作られた「おつまみ」がセットになって500円。野球場の生ビールと比べれば破格の安さである。

車内販売は期間も区間も限定

ただ、現時点ではあくまでも神泡のキャンペーンの一環としての販売。そのため、専門パーサーが乗務して神泡セットを注文できるのは4月2日まで。1日5往復の「のぞみ」、それも東京―名古屋間に限られる。

「お客さまの評判が良ければ、今後の展開も考えることになると思います」とJRの担当者は言うから、もしかしたら神泡は新幹線で当たり前の光景になってくれるかもしれない。

そして、神泡のデモを見て感じたのは、ビールには“見た目の効能”も大きいということ。黄金色と白い泡のバランスが見事な、いかにもウマそうなビールを目にすれば、ついつい頼みたくなってしまう人もいるだろう。

それこそ同行者と“生でカンパイ”ができたら、疲れた出張帰りの新幹線も悪くない。それにもしかしたら、たまたま乗り合わせただけの隣席の他人とも、思わずカンパイなんてこともあるかもしれない。パーサーが神泡を注ぐ様子も、今まで見たことがないものだからいい“さかな”になる。

「もちろん、ビールに限らずお酒は節度を持ってお楽しみいただいて、周囲のお客さまのご迷惑にならないように」(浅賀さん)――東海道新幹線の車窓と生ビール(の泡)は新たな名物になるかもしれない。各地で廃止が相次ぐ特急や新幹線の車内販売だが、今回のチャレンジは逆境のなか、巻き返しのヒントのひとつになりそうだ。(鼠入 昌史 : ライター)

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