養蚕農家の杉本脩さんが育てた「玉小石」の繭から試作品(手前)を仕上げた製糸・織物職人の嘉村亜紀子さん=福井県坂井市三国町北本町3丁目の工房

 福井県産繭の未来紡ぐ―。北陸唯一の養蚕農家の杉本脩さん(86)=福井県福井市=が生産する繭の利用が途絶えようとする中、製糸・織物職人の嘉村亜紀子さん(42)=同県坂井市=が引き受け手となり、手仕事で絹織物の商品化に挑んでいる。出荷先がなくなれば県内から養蚕農家が姿を消すことになる上、杉本さんが扱う皇室ゆかりの蚕「玉小石(たまこいし)」の飼育元は全国でもごくわずか。嘉村さんは貴重な繭を手に「思いをつないで福井の文化を守っていきたい」と製作に励んでいる。

 かつての羽二重王国・福井を支えた多くの県内養蚕農家のうちただ1軒残った杉本さんが、純国産種の玉小石の飼育を始めたのは2009年。「本物の着物を作るために日本古来の繭を」と呉服店の大門屋(同県大野市)から依頼を受けたのがきっかけだった。取れた繭は同店が買い取り、石川県の工場で伝統織物「牛首紬(うしくびつむぎ)」に使われてきた。

 玉小石は、飼育に繊細な技術を要する上、取れる糸の量が極端に少なく、生産農家は国内でも杉本さんを含む数軒に限られる。その貴重な生産・流通態勢が揺らいだのは約2年前。玉小石の繭は高価な分だけ商業ベースに乗りにくく、石川県の工場が取り扱いを断念した。大門屋が別ルートを探ったが新たな利用先は見いだせず、出荷品種を玉小石のみに絞っていた杉本さんは養蚕の中止を一度は決断しかけた。

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