【論説】米国が中距離核戦力(INF)廃棄条約の破棄をロシアに通告。これを受けロシアのプーチン大統領も、対米交渉を打ち切り最新兵器の配備を急ぐ考えを明らかにした。条約が失効するのは6カ月後とされるが、二つの核大国の間で軍備管理の役割を果たしてきた条約は事実上、終わりを告げた。世界の安全保障情勢は、より危険な段階へ踏み込むことになった。

 条約はソ連による欧州へのミサイル配備が契機となったものだが、今の米ロの対立には中国などアジアを巡る思惑が絡み、日本も既に巻き込まれている。今後懸念される核競争の舞台は東アジアになる可能性が指摘され、となれば日本は対立の最前線に置かれてしまう。日本は、米ロに中国を加えた軍縮対話実現を、困難を承知で探るほかない。

 米国は条約破棄の理由について、ロシアの新型ミサイルの射程は条約で禁じた範囲(500キロ~5500キロ)にあり、米国だけが条約を守るいわれはないと説明。だが、真の狙いは軍備増強を続ける中国を抑え込むことだと、多くの識者が指摘している。中国の軍拡に対抗するには条約が足かせになるからだ。

 ロシア側は、新型ミサイルの射程は480キロだと反論し、米国が配備を進める迎撃システムこそ中距離ミサイルが発射可能だから条約違反だ、と主張。日本が導入を決めたイージス・アショアもこれに含まれると警告するなど米国の迎撃網をけん制しつつ、破棄通告を待っていたかのように軍備増強に乗り出した。

 一方、米国の「標的」といわれている中国は、破棄を非難する半面、米ロ双方が言及している「中国などを交えたINF廃棄条約の多国間化」については反対を明言した。自国の軍備増強が縛られることは認めない、との立場だろう。

 米ロ中が勝手なことを言い合う中、日本はどうか。菅義偉官房長官は破棄は望ましくないとしながら「米国が(破棄の)発表に至った問題意識は理解できる」と述べた。河野太郎外相も同様の発言をしている。

 背景にあるのは当然、中国の軍拡だろう。川上高司拓殖大教授は、中国は沿海部を中心に推計1700のミサイルを配備。中には米領グアムに届くもの、核兵器を搭載できるものがあると指摘する。米国がこれに対抗する目的で動いている以上、強く異論を唱えられないとの思惑が透ける。

 しかし、この局面で米国に「理解を示す」ことが本当に日本の国益だろうか。菅氏も河野氏も同時に「条約の多国間化」の必要性を訴えている。そうであれば、破棄に至った現状をまず否定した上で、新たな道を提示するのが筋ではないか。破棄は北朝鮮の非核化に悪影響があるはずで、その意味でも懸念を明確に表明すべきだった。

 米ロ中の指導者と緊密な関係を誇示する安倍晋三首相は、3国の軍縮対話実現へ先頭に立って尽くすべきだ。それが被爆国の義務であり、日本の安全を守る道でもある。

関連記事