【越山若水】まさに二重の春の知らせである。「立春」のきのう、北陸地方で「春一番」が吹いたと発表された。1999年に情報提供を始めて以来、最も早い観測だという▼ご存じだろうが、春一番は立春後に最初に吹く強い風。日本海の低気圧に向け、南寄りの風が吹き込む現象を指す。元来は漁民たちが警戒を込めてそう呼んだ▼「寒明けの金魚浮く斑(まだら)におぼえあり」「雀(すずめ)らも春一番にのりて迅(はや)し」。いずれも福井県で生まれ育ち、高浜虚子に師事して写生俳句を極めた皆吉爽雨の句である▼前句は長い冬を終えた解放感と春の再来を、金魚の鮮やかな色模様から実感している。後句は突然に吹き出した暖風の驚きと感慨を、飛び立つスズメに託している。動物も季節も生命感に満ちている▼しかし二重の春の知らせも半信半疑である。何しろ37年ぶりの豪雪に泣かされた昨年の記憶がよみがえる。1年前の立春に福井市は積雪40センチ。7日には147センチを記録した▼そんなこんなで迎えた今冬だけに「立春」も「春一番」もすんなり信じられない。まだ一度も出番がないわが家の除雪機も、待機命令は継続している▼春の兆しを喜びながら、心の片隅で「油断大敵」をつぶやく。邪推ではあるが、県人の皆吉爽雨も降雪の不安を胸に秘めていたかもしれない。その用心深さをあげつらうのでなく、雪国のあるべき備えと思いたい。

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