【論説】「全世代型社会保障」は安倍晋三首相が一昨年秋の衆院解散以降、折に触れ言及するフレーズである。先の通常国会の施政方針演説でも触れている。気になったのは「高齢者の皆さんへの福祉サービスを削減する、との意味では全くありません」と付け加えたことだ。

 10月の消費税増税による増収分の一部を使う幼児教育の無償化などは、全世代型の第1弾といえる。ただ、借金返済に充てるべき費用であり、全世代に広げるためには新たな財源の捻出は欠かせない。財務省は高齢者の医療費負担増などを想定しているとされるが、首相の先の言葉はこれを否定したかに映る。財源は一体どうする気なのか。

 ■70歳継続雇用■

 施政方針演説ではそれとおぼしきくだりもあった。「人生100年時代」「生涯現役」と前置きし、65歳まで継続雇用としている現行制度を70歳までに拡充できるよう、夏までに計画を策定し実行するとした点だ。

 働く高齢者が増えれば、税収はむろん年金財政も潤うはず。ただ、継続雇用に関しては企業側から人件費の膨張や若者世代の雇用減少を危惧する声が上がり、財界トップも一律義務付けには慎重な姿勢を示している。

 厚生年金などの公的年金の受給者にとっては、現役世代の報酬の5、6割の給付額では、従来の生活を維持できず、働いて補う必要がある。国民年金の加入者の場合は40年間保険料を納めても給付額は月数万円とされ、生活保護受給者よりも少ないとの指摘がある。

 60歳以上で働いている人のうち、70歳以降も働くことを望んでいる人の割合は8割以上に上っているとの調査があるが、働かざるを得ない厳しい現実があるからだろう。

 ■「28万円の壁」■

 だからといって70歳までの継続雇用を希望する人はどれくらいいるだろうか。

 現状の65歳継続雇用でも多くの課題を抱える。現役時代との待遇格差や、現役社員との折り合いなどへ不満を訴える声は少なくない。70歳まで引き上げられるとなると、健康問題や個人の能力差といった課題が一層浮上してくるのではないか。

 加えて、65歳継続雇用では「28万円の壁」が労働意欲の減退や就労自体の抑制につながったとの指摘がある。年金と給与の合計が28万円を上回った場合、超過分の半分の年金が減額される制度だ。政府が70歳継続雇用でも適用し、年金支給開始年齢を繰り下げる算段なら国民の猛反発は避けられない。

 厚生労働省は、70歳継続雇用に連動して公的年金の受給開始年齢を、希望すれば75歳まで繰り下げられるよう検討に入ったという。毎回の受給額を上乗せする優遇措置だ。考えすぎかもしれないが、支給繰り下げへの伏線のようにも思える。

 ■将来への不安■

 年金など社会保障給付費は高齢人口がピークとなる2040年には現在の1・5倍強の約190兆円に達するとされる。危機感を背景に一層の消費増税や年金支給の繰り下げなど大なたを求める声も高まりつつある。

 ならば丁寧な説明をまずは始めるべきだ。社会保障を巡る世代間格差など将来への不安をこのまま放っておいては未来は切り開けない。子や孫の世代を思えばやむを得ない、そんな説得力が政権に求められている。

 だが、安倍政権は夏の参院選勝利はむろん、残る任期中の宿願の憲法改正をもくろむ。全世代型社会保障はそのための甘言だとしか思えない。「平成の、その先の時代」をまたぐ最長政権だからこそ向き合えることがあるはずなのに。

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