【越山若水】日本を代表する民俗学者の1人に宮本常一がいる。生涯4千日をかけ全国を16万キロ、地球4周分を歩き通し、足跡をたどれば日本地図が真っ赤に染まるといわれた▼農山漁村の古老にじっくり話を聞き、記録ノートや日記に詳細に書きとめた。地域の民具資料も収集し、変貌が著しい戦前戦後の民衆の暮らしを記録し続けた▼中でも「宮本民俗学」の特徴といえるのが10万枚を超える写真である。ではなぜ写真を研究の主要ツールにしたのだろう。答えは結核の入院中に読んだ本にあった▼宮本はシリーズ「岩波写真文庫」に強いインパクトを受けた。「私は民俗的なものばかり撮るが、その時々に写した写真を並べると、市民の日常生活が何によって、どう改変されるのかよく分かる」▼「民俗学は本来、大衆の生活を対象とする学問のはず。もっと生活に密着すべきだと思う」。写真民俗学の宣言である(木村哲也著「宮本常一を旅する」河出書房新社刊)▼民俗的なものだけでなく、人々の生活そのものに気を配る―。宮本の生活目線は、毎月勤労統計などの不正調査で混迷する政治の世界にも言えること▼官公庁がどこを見て仕事をすべきかはもちろん、実質賃金がマイナス修正されながらも、所得は改善と言い張る安倍政権。「アベノミクス偽装」と色めく野党は選挙目線だ。目の置き所はくれぐれも間違えずに。

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