【越山若水】「ポツンと一軒家」というテレビ番組が人気のようだ。その名の通り、日本全国の山奥や離島にただ一軒ある家を訪ね、住人らの話を聞く。それだけなのに面白い▼近所の人たちが山を下り、ついに取り残される形になった家もあれば、由緒ある神社を守るためにあえて居残った家もある。切なくなったり、感心したりする▼不便な生活には違いないし、寂しくもあるはず。そんな想像をしながら見ていて不思議なのは、そんな暮らしのなかで一軒家の住人が充実した顔をしていることだ▼哲学者の内山節さんにヒントめいた一文がある。自身が住む群馬県上野村には「山上がり」の習慣があった、というのである(「『里』という思想」新潮選書)。こんな中身だ▼村人が経済的に困窮したときには文字通り山に上がる。自分で木を切って小屋を作り、自給自足をする。働ける者はその間に出稼ぎをして、借金を返し終えたところで村へ戻る▼「ずいぶん悲惨な緊急避難という気もする」と内山さんが読者の思いを代弁すると「逆だ」と村人は答えたという。困れば山へと思えば気持ちに多少の余裕が出る、と▼山上がりの習慣が途絶えて60年余り。下界では便利で華やかな社会が出現したが、このごろはなんだかギスギスして住みにくい。「ポツンと―」にひかれるのは、素朴な山ぐらしへの郷愁によるのかもしれない。

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